日本OTC医薬品協会顧問 西沢元仁
2019年は令和元年となり、将来に向けた期待に満ちた年となった。OTC医薬品産業にとっても大きな変革に向かった結節点として、記憶される年となるかもしれない。佐藤会長の19年年頭あいさつにも示されたように、OTC医薬品産業に対する国の期待は、引き続き様々な基本政策文書に示されたが、それを実現する上での課題解決はなかなか具体化に至らず、問題解消に向けた関係者の努力が求められてきた。
今年の祝賀会は、前年が未曽有の大雪に見舞われる中での開催となったのに比べて、穏やかな天候のもとで多数の来賓からのごあいさつをいただき、一層の発展に向けた決意が固められた。
医薬品産業全般と医療機関等との関係の透明化が一層求められる中、当協会においても、OTC医薬品企業の活動と医療機関等との関係の透明性ガイドラインの一部改訂を行い、生活者にとって必要なOTC医薬品の開発が進むよう配慮を行った。
さらに、医薬品医療機器等法改正から5年を経過し、法制定時の付帯決議に従った点検が進められたが、OTC医薬品の販売制度に絡んだ部分はあまり論議にならず、より新薬の開発に向けた見直し案が取りまとめられた。新薬の開発は将来的にOTC医薬品のリソース強化にもつながるものではあるが、OTC医薬品の製販配事業者にとってはいささか期待外れとなったことは否めない。
むしろ、OTC販売制度改正に際し、安全対策の観点から様々な制約が講じられ、施行後も覆面調査その他の点検が繰り広げられ、順守率の低下すら見られるとして非難が浴びせられた。また、隔年で実施される薬物乱用調査研究で、青少年における乱用薬物のトップにOTC医薬品が挙げられ、コデイン類をはじめとしたOTC医薬品の取り扱いに厳しい目が向けられた。
世界的に見ると、わが国における薬物乱用率は極めて低い状況にあり、指定薬物制度の導入と取り締まり強化により2年前に比べて甚だ入手困難となった違法薬物よりも、合法的に入手可能なOTC医薬品が乱用事例の対象薬物に挙げられるのは、ある意味当然なのかもしれない。
そのようなことを理由に、店頭での購買者指導が不十分のおそれがあるとして、医療用医薬品成分の一般用医薬品への使用(いわゆるスイッチ)は不可との主張すらされている。このような事態に対しては、オリンピック・パラリンピック開催を前に、海外ではOTC化されている医薬品が日本ではなぜ生活者に提供されないのかとの声も上げられている。
世界的に見ても、わが国が先駆けとなっている高齢化社会の到来は、工業化諸国、発展途上諸国を問わず、未来に向けた共通課題となっている。国際連合が掲げる持続可能な社会の実現に向けた諸課題(SDGs)は各国で取り組みが進められており、その中で生活者一人ひとりが自らの健康に関心を持ち、その維持増進に向けた取り組みを進めるセルフケア・セルフメディケーションが求められている。
世界各国のOTC医薬品協会が参加する世界組織も、これまでは世界セルフメディケーション協会(WSMI)と名乗っていたが、より広範な取り組みを進める加盟会員の動きを反映し、世界セルフケア連合会(GSCF)へと呼称を改めた。
GSCFでは、活動振興に向け数年に1度の割合で地域大会を開催しているが、今年は北京でアジア太平洋地域会合を地域協会(APSMI)、中国協会(CNMA)と共に開催し、OTC医薬品のみならず、デジタル技術やビッグデータ、伝統医療資源に至る広範な課題を取り上げた。当協会の副会長である野上麻理武田コンシューマーヘルスケア社長、柴田仁大幸薬品会長(日本一般用医薬品連合会会長)からの講演も論議を盛り上げた。
昨年から始まった7月24日のセルフケアデーを中心とした取り組みも引き続き進められ、10月のOTC医薬品普及活動も厚生労働省や東京都の後援も得て、ますます盛んとなっている。
とりわけ、7月の参議院議員選挙では、与党2人目の薬剤師議員として本田顕子議員が誕生し、藤井基之議員と複数体制で、先の薬機法改正案審議に参画いただいた。今後、わが国のセルフケア・セルフメディケーション推進の取り組みに大きな寄与をいただけるものと期待している。
わが国の直面する超高齢化、人口減少社会の到来は、とかく悲観的な材料とされがちであるが、世界の先駆けとして取り組む機会が与えられたものであり、今後同様の課題に直面するアジアや世界の国々に対し、対処に向けた経験を開陳する貴重なチャンスとして、ぜひ生かしていきたい。
そのような意味で、国が基本政策の一つとするセルフケア・セルフメディケーションの実現に向け、産業界の取り組みをより前進させる環境が速やかに整備されることを願っている。とりわけ20年度は、時限立法で設けられたセルフメディケーション税制(医療費控除の特例)措置の拡充・延長に向けた正念場であり、関係者の総力を結集した取り組みが期待されている。