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為替変動で明暗も
海外大手製薬企業の2008年上半期決算が出揃った。ファイザーが主力品の売上増に加え、有利な為替変動を追い風に、二桁の増益と業績を回復。逆にサノフィ・アベンティスは、主力品の業績が好調だったにもかかわらず、為替変動によって減収減益に見舞われ、明暗が分かれた。各社ともワクチン事業と癌領域が好調だったが、ロシュはインフルエンザ治療薬「タミフル」の大きな落ち込みで減収減益決算に転じるなど、季節性製品の収益幅の大きさを露呈した。なお、売上高の日本円換算には、1ドル=110・13円、1ポンド=211・25円、1ユーロ=164・92円、1スイスフラン=101・73円の為替レートを用いた。
二桁増益で業績回復”米ファイザー
米ファイザーは、米国特許切れに伴う主要製品で減収となったが、為替変動などの影響で、売上高は2%増の239億7700万ドル(2兆6406億円)と微増、純利益は19%増の55億6000万ドルと大幅に伸長した。
医療用医薬品の売上高は、1%増の219億5700万ドル。主力品の高脂血症治療薬「リピトール」は、米国市場で二桁の減収となったが、米国外の売上増と為替変動が追い風となり、1%増の61億ドルと回復した。
降圧剤「ノルバスク」は、引き続き米国特許切れの影響を受けて33%の大幅減となったものの、神経障害性疼痛治療薬「リリカ」が50%増、抗癌剤「スーテント」が62%増、禁煙補助薬「チャンピックス」が33%増と好調だった。
新製品が好調に推移”英GSK
英グラクソ・スミスクラインは、引き続き糖尿病治療薬「アバンディア」製品群が大幅減となったものの、ワクチンと新製品の好調でカバーし、売上高は3%増の115億6000万ポンド(2兆4421億円)、営業利益は2%増の41億7400万ポンドとなった。
医療用医薬品部門は、1%増の96億9000万ポンド。「アバンディア」が51%減と落ち込みに歯止めがかからない状況だが、ワクチン部門が23%増の10億1300万ポンドと大幅に伸長。抗てんかん薬「ラミクタル」が17%増、抗ウイルス剤「バルトレックス」が14%増と二桁の伸びを見せ、新製品群も好調に推移してアバンディアの減収分をカバーした。
為替変動で減収減益”仏サノフィ・アベンティス
仏サノフィ・アベンティスは、抗血小板薬「プラビックス」など主力品とワクチン事業が好調だったものの、為替変動による米ドルの急落が影響し、売上高は3・6%減の136億2600万ユーロ(2兆2472億円)となった。
医薬品事業の売上高(調整後)は、睡眠導入薬「アンビエン」が米国での後発品発売の影響で50・1%減と大幅に落ち込んだが、主力の静脈血栓症治療薬「レベノックス」が12・9%増、「プラビックス」が13・4%増、糖尿病治療薬「ランタス」が28・9%増と好調で、2・3%増の124億2100万ユーロと増収を確保した。
一方、ワクチン事業は、インフルエンザワクチンが前年同期の減収から38・9%増と大幅に伸長したことなどから、10・1%増の12億0500万ユーロと二桁成長を維持した。
調整後純利益(少数株主持ち分控除後)は、8・6%減の34億6800万ユーロだった。
「タミフル」の大幅減が響く”スイス・ロシュ
スイス・ロシュは、抗インフルエンザ治療薬「タミフル」の大幅な売上減が響き、売上高は4%減の220億0400万スイスフラン(CHF)(2兆2385億円)、純利益は2%減の57億3200万CHFと減収減益になった。
医療用医薬品の売上高は、6%減の172億5700万CHF。ロシュが4%減だったことに加え、ジェネンテックが前年同期の二桁増から7%減、中外製薬も14%減と大きく落ち込むなど、グループ全体で振るわなかった。
癌領域は、「アバスチン」が36%増、「タルセバ」が28%増など、中心製品群が高い伸びを示し、癌領域全体では15%増の二桁成長を達成した。しかし、「タミフル」が71%減と落ち込みが激しく、減収をカバーできなかった。
癌・ワクチン領域が好調”スイス・ノバルティスファーマ
スイス・ノバルティスファーマは、抗癌剤「グリベック」など癌領域とワクチンが好調で、二桁の増収増益となった。
売上高は、11%増の206億3500万ドル(2兆2725億円)。抗癌剤「グリベック」が17%増、「フェマーラ」が19%増と成長を牽引。主力の降圧剤「ディオバン」も12%増と好調で、米国で後発品の攻勢を受ける抗てんかん薬「トリレプタル」など4製品の減収分を大きくカバーした。
ワクチン・診断関連事業は、25%増の6億0200万ドル(1兆2837億円)と好調を維持。後発品事業のサンドは、米国で売上が減少したものの、生産性向上で補い、5%増の5億9100万ドルとなった。
営業利益は、12%増の49億4900万ドル。
主力品が二桁の伸長”英アストラゼネカ
英アストラゼネカは、売上高は10%増の156億3300万ドル(1兆7217億円)だった。
主力品の中で抗潰瘍薬「ネキシム」は7%減となったものの、統合失調症治療薬「セロクエル」が10%増、高脂血症治療薬「クレストール」は22%増、配合喘息治療薬「シンビコート」は16%増と二桁の伸びで増収に貢献した。
税引き前利益は、メドイミューンの買収によるのれん償却負担などの影響を増収でカバーし、8%増の51億9400万ドルとなった。
コンシューマー事業も貢献”米J&J
米ジョンソン・エンド・ジョンソンは、医療用医薬品の増収に加え、コンシューマー事業が大きく伸長し、売上高は8・2%増の326億4400万ドル(3兆5951億円)となった。
医療用医薬品の売上高は、3・2%増の127億6900万ドル。抗リウマチ薬「レミケード」が17・8%増、片頭痛治療薬「トパマックス」が11・4%増となったほか、多発性骨髄腫治療薬「ベルケード」も増収に貢献した。
医療機器・診断薬事業は9・7%増の117億7500万ドル、コンシューマー事業は14・7%増の81億ドルだった。
純利益は、インプロセス研究開発費が大幅に減少したため、22・5%増の69億2500万ドルにとどまった。
売上高は横ばい”米メルク
米メルクは、ワクチンや新発売したDPP‐4阻害剤「ジャヌビア」が好調に推移したものの、売上高は118億7300万ドル(1兆3076億円)と横ばいだった。
製品別には、骨粗鬆症治療薬「フォサマック」が後発品の影響で42%減と大幅に落ち込んだものの、主力のアレルギー治療薬「シングレア」が4%増、降圧剤「コザール/ハイザール」が9%増となったほか、ロタウイルス予防ワクチン「ロタテック」などワクチンや新製品「ジャヌビア」の好調でカバーした。
純利益は、関連資産の売却益や、抗潰瘍薬「ネキシウム」に関するアストラゼネカからの分配利益の計上があり、50%増の50億7000万ドルとなった。
為替の影響で減益”米ワイス
米ワイスは、抗リウマチ薬「エンブレル」など主力品の売上が貢献し、売上高は6%増の116億5600万ドル(1兆2837億円)となったが、純利益は為替の影響などから6%減の23億1904万ドルとなった。
主力の抗うつ薬「エフェクサー」は9%増となったほか、抗リウマチ薬「エンブレル」は36%増と好調を維持。肺炎球菌感染予防ワクチン「プレベナー」も12%増と二桁の伸びを見せ、増収に貢献した。
主力品好調で増収増益”米イーライリリー
米イーライリリーは、大うつ病治療薬「シンバルタ」などの主力製品が貢献し、売上高は12%増の99億5800万ドル(1兆0967億円)となった。
製品別では、抗精神病薬「ジプレキサ」が2%増、勃起不全治療薬「シリアス」が44%増、「シンバルタ」が31%増、抗癌剤「ジェムザール」が12%増。
純利益は、前期に計上したアイコスの買収費用などの影響が除外され、73%増の20億2300万ドルとなった。
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