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産業技術総合研究所の井村和弘研究員らは、大豆油から作ったバイオサーファクタントを用いた新しい抗体分離技術を開発した。従来の蛋白質系リガンドを用いた技術より、安価に抗体が分離できることから、医薬品開発や医療、バイオ抗体などへの応用が期待されいてる。
抗体分離には、蛋白質系リガンドとしてプロテインAが広く用いられているが、プロテインAは非常に高価な上に、IgAやIgM、ニワトリ由来のIgYなどの抗体分離には使えないという短所があった。
井村氏らは、酵母を利用して大豆油から作ったバイオサーファクト(BC)であるマンノシル・エウリトールリピッド(MEL)という糖脂質が、抗体と親和性があることを発見、これをリガンドとして利用する研究を行った。
その結果、プロテインAに比べて、MEL‐Aは約4倍もIgGとの親和性が高いことや、プロテインAがほとんど親和性を示さないIgAやIgM、IgYとも結合することを明らかにした。
研究成果をもと井村氏らは、MEL‐Aを固定したカラムを開発しており、IgGをプロテインAの約7分の1の効率で分離することに成功した。プロテインAの場合、抗体1kgを分離するのに100万円程度かかっていたが、この分離技術を用いると100分の1程度の数千円0数万円に抑えることができるほか、精製した製品中に抗体が残留してヒトの体内で抗原抗体反応を起こすといった抗原性の懸念もなく、有機溶媒を用いても活性を失うことがないなど、取り扱いが容易なことも特徴となってる。
現時点での抗体分離性能は劣るが、長い分離カラムにすることで解決できる可能性があり、井村氏らは2年以内にプロテインAと同等の性能達成を目標に研究を進めていく。
体内の免疫システムで重要な役割を担っている抗体は、抗癌剤などの医薬品や血漿交換等に用いるバイオメディカル材料、機能性食品など幅広い分野での需要拡大が見込まれている。
井村氏らは、医薬品製造では許可等の問題があることから、医薬品製造以外の用途であるバイオメディカル材料、機能性食品、化粧品などでの活用を考えている。特に、血漿交換への応用に期待している。
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