日本製薬工業協会専務理事 森和彦
今年は昨年12月に公布された改正医薬品医療機器等法の施行が始まった年である。今回の制度改正により、製薬業界にとっては革新的な医薬品等の創薬のための規制の合理化が進み、開発の予見可能性が高まると期待されていた。革新的な医薬品を含めた様々な製品が医療現場で適切に使用され、効果的な薬物治療が安全に行われるように薬局、薬剤師のあり方の見直しも行われた。
地域医療の中で他職種との連携を強めながら継続的な患者のフォローを薬剤師が責任を持って行うことが期待されている。法改正により、そのような薬局を「地域連携薬局」という呼び名で認定し、表示させることとしている。高齢化が進むわが国では疾病構造が大きく変わり、今や癌患者が最も多くなっている。
癌の治療は入院のみならず、抗癌剤治療を外来通院や在宅で継続することも多くなり、そうした患者への高度薬学的管理も重要となっている。癌治療に関する専門的知識・経験を有する薬剤師を配置し、癌治療の専門医療機関と連携しながら患者の服薬指導等の薬学的管理を行う薬局として「専門医療機関連携薬局」も認定し、表示させることになった。
今後は、患者もしくは患者の世話をする家族等が、自らの必要に応じた薬局を選び、かかりつけ薬剤師による継続的な服薬フォロー等のサービスを受けやすくなることが期待されている。
どんな医薬品も患者がその使用目的を正しく理解し、適切に使うことにより期待された治療効果が得られ、副作用に関しても予めどのようなものが起こり得るのかに関して患者が理解していれば、副作用の早期発見や予防が容易になり、大事に至ることがより少なくなると期待される。そのために薬の専門家としての薬剤師が患者を継続的にフォローする「かかりつけ薬剤師」としての役割を果たすことが重要であり、改めて制度的にも義務づけられたと言える。
今年は、製薬企業が関わる創薬も薬局・薬剤師が関わる育薬も、制度改正と相まってより一層の進化が期待されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大により状況が大きく変化している。医療現場には感染患者の治療や患者や医療従事者の感染防止の対応のために大変な負荷がかかり、4月、5月ごろには治験の進行がかなり遅れたと言われている。
一方、通常の診療でも感染防止の観点から患者がなるべく医療機関を訪問せずとも受診ができるオンライン診療、オンライン服薬指導の活用が進められている。企業の開発担当者やMRも極力医療機関への訪問を控えざるを得なくなり、医療現場とのコミュニケーションが対面中心からウェブや電子メールを介したものに急速に比重が変わってきている。
これは近年、欧米で進められているウェアラブル端末を利用したリモートでの情報収集を基本とした治験の手法に、日本でも取り組む動きを加速する可能性があると考える。
患者が暮らす地域でも感染防止のために極力ソーシャルディスタンスを確保する必要性から、薬局でも患者とはマスクを着けてシールド越しで会話することが基本となり、従来の対面での患者とのコミュニケーションとは違った工夫が必要になると想定される。
肝心なのは、薬剤師も薬局も新型コロナ感染拡大防止に積極的に関わり、患者や生活者の感染防止の取り組みを支援することではないかと考える。今年はじめの段階では情報が不十分で科学的に正しい知識に基づくアドバイスを薬剤師が行うことが難しかったが、治療薬やワクチンの開発が世界的に大変な速度で進み、その一部は実用化され、医療現場で用いられるようになりつつある。
これら最新の診断・治療・予防に関する情報やマスクや消毒薬や手洗い用洗剤等の衛生製品の提供とそれらに関する正しい知識や使い方を薬剤師もしっかりフォローし、患者や生活者の疑問に分かりやすく答えることで感染拡大防止に貢献できるのではないかと期待される。
季節が冬になるに伴い、新型コロナウイルス感染が急速に拡大し、医療関係団体は緊急事態を宣言する状況になっており、欧州では感染力がより強い変異ウイルスが検出されるなど、予断を許さない厳しい状況が続いている。このような状況の中でも医療体制を守り、患者や生活者の命を守るためにも薬局、薬剤師の方々の幅広い活躍に大いに期待したい。