日本薬剤師会専務理事 磯部総一郎
今年は新型コロナウイルス感染症対策で明け暮れた一年でありました。思い返せば、1月に日本国内で最初の感染患者が発生の後、2月のダイヤモンド・プリンセス号における3700人を超える乗客・乗員への検疫、日本国内でのパンデミックの発生、緊急事態宣言、第2波、第3波等の到来があり、現時点でも予断を許さない状況が続いております。
この新型コロナウイルス感染症は医療関係に多大な影響を与えました。これまで感じたことのない医療崩壊が本当に起こるのではないかとの強い危機感、一般患者の大幅な減少に伴う医療機関・薬局への経営崩壊が同時に起こっています。
こうしたコロナ禍の下にあっても薬剤師・薬局、多くの製薬企業、卸など薬業に関わる皆さまは、感染防止に取り組みながら、国民への環境衛生の普及・啓発、必要な医薬品の研究開発・製造、地域の医薬品提供体制の維持を通じて、必要な薬を絶え間なく地域住民へ供給する努力を続けていただいていることに感謝申し上げます。一方、度重なるジェネリック医薬品などの品質不良、供給不安の事案については、製薬企業の方々に強く改善をお願い致します。
また、私たちは強く反対しましたが、新型コロナウイルス感染症が蔓延している中、薬価調査が強行されました。この調査結果を受けて、初めての中間年薬価改定が行われることになりました。それも、今夏の骨太の方針で決めた内容を大幅に超えるもので、極めて残念な結果でありました。
このような中間年薬価改定が行われることで、医療機関・薬局経営の経営崩壊のみならず、わが国内での新薬の研究開発、製造などへの投資減少、原薬調達コストを削減するための原薬海外調達の増加を強く心配します。
特に、製薬企業の関係では、過去に起こった事例ですが、長期に渡る薬価削減が、わが国内での発酵技術を用いた抗生物質製造プラントを閉鎖に追い込みました。製造プラントが閉鎖に追い込まれるとそこで働く技術者はいなくなります。技術者がいなくなるといざ再開しようと思っても大変な困難を伴います。
これと同じことが、通常の化学医薬品でも起こるのではないかということを大変心配しています。このようなことを起こさないよう、皆で声を上げていくことが必要だと思います。
また、今年は改正医薬品医療機器等法の一部が9月に施行され、薬局の定義が改正されました。改正法では、これまでの調剤を行う場所という定義から、薬局は調剤のみならずOTC医薬品を含めたあらゆる医薬品を取り扱う場所であり、服薬指導などの薬学管理を行う場所であることが明確にされました。
薬局は住民・患者から信頼されて選ばれる「かかりつけ」としての機能と役割を充実・強化し、「地域包括ケアシステム」の構築に向けてその一翼を担い、国民・患者から望まれる役割を果たしていくことが重要です。
一方、政府では昨年9月に安倍政権から菅政権にバトンタッチされ、「デジタル化」「規制改革」という言葉が繰り返し取り上げられるようになりました。薬剤師・薬局に関わるものとしては、オンライン服薬指導に関するルールの見直し、OTC医薬品の販売における薬局・店舗販売業における専門家の常駐の考え方、セルフメディケーションの推進、電子処方箋の推進のための整備などが挙げられます。
当然ながら、これらの改革は、単にアナログがデジタルに変わったのではなく、「モノからヒトへ」の流れの中で、薬剤師・薬局がなすべき責任を的確に果たし、その業務を円滑化するものでなければなりません。
その上で、住み慣れた地域で、国民が安全、安心して医薬品を使うことができるよう、薬剤師・薬局には、医薬品の使用状況を一元的・継続的に把握し、薬物治療の責任を全うできる環境を整えることが求められているものと考えております。
以上述べたように、今年は新型コロナウイルス感染症に翻弄され厳しい年ではありましたが、改正薬機法やデジタル化など今後の薬剤師・薬局の方向をよく考える時期でもあったように思います。
新型コロナウイルスは感染力が強く、夏場でも感染者が増加するなどなかなかしぶといウイルスですが、人類の歴史を見ても、われわれはこのような新興・再興感染症を克服してきました。来年は必ずこの感染症を克服して、明るい希望のある年が来ることを信じて、前を向いて皆で協力して進んでいきましょう。