AIで薬歴記載時間を短縮‐患者との会話から自動生成
コスモファーマグループは、福島県を中心に全国に約200店舗の調剤薬局を展開している。本社を構える福島県郡山市で運営しているコスモ調剤薬局西ノ内店は、三菱電機デジタルイノベーションが提供する次世代コミュニケーションサービス「AnyCOMPASS」のAIアシスタント機能を導入し、薬剤師業務の生産性向上に結びつけている。服薬指導時に患者とのやりとりをAIが文字起こしする機能を活用して、薬歴記載時間を短縮すると共に、患者への服薬指導にも良い変化を生み出すことにも成功した。同薬局の管理薬剤師である大槻修平氏は「以前は患者さんが話した内容をパソコンで入力するのと並行して指導していたが、今では患者さんの目を見て指導を行えるようになった」と手応えを語る。

左から大槻氏、吉田氏
同薬局は主に総合病院の処方箋を応需している薬局で薬剤師4人が在籍している。1日の処方箋応需枚数は80~90枚、生活習慣病から癌、免疫疾患、精神科など様々な診療科の患者が来局する。
患者から選ばれる薬局を目指し、OTC医薬品の販売や健康相談など地域住民を未病の段階からサポート。薬局内には半個室の投薬窓口を設け、患者のプライバシーに配慮し、相談しやすい構造にするなど工夫した。処方箋なしでも立ち寄る地域住民もいるなど地域に根付いた薬局になっている。

薬歴の記載時間が大幅に短縮
その一方、薬剤師の業務効率化は喫緊の課題だった。特に薬歴記載は薬剤師の業務時間全体のうち4分の1を費やす業務であり、総合病院の処方箋は複雑で多種多様だ。来局するたびに処方が異なる患者や重篤な疾患を抱える患者など、薬歴記載業務に時間を費やす割合がなかなか削減できない現状であった。
そこで導入したのが三菱電機デジタルイノベーション(東京都中野区)が開発し、代理店として福菱コンピュータ販売(福島県郡山市)が販売・導入・サポートを実施している次世代コミュニケーションサービス「AnyCOMPASS」のAIアシスタント機能だ。もともと処方箋入力やレセコンで同社システムを利用していたが、AIアシスタント機能のリリースと同時に本機能をテスト導入することになった。
同社のサービスは指導内容データベースや過去の指導実績を学習し、生成AIを活用することで患者に合った指導内容をアシストする。また、患者属性情報や患者基本確認情報、処方内容、患者と薬剤師との会話情報からSOAP形式の薬歴を生成AIで自動生成することで薬歴記載情報を効率化するなどの特徴を持つ。
同薬局は昨年12月からトライアルで利用し、今年3月から本格導入した。既に導入効果が現れており、AIアシスタント機能の導入前後では薬歴の記載時間が大幅に短縮され、1カ月当たりの残業時間が10時間程度あったものが、ほぼ発生しない水準まで削減された。

コスモ調剤薬局西ノ内店

待合室の様子
服薬指導の充実につなげる
大槻氏は「薬歴記載時間の短縮によって業務内で時間を生み出すことができ、医薬品の管理や実務実習生への教育に充てることができるようになっている」と語った。
AIの導入は業務効率化にとどまらず、服薬指導の質向上にもつなげているという。大きく変わったのが「患者の目を見て話すことができるようになった」という点だ。
AI導入前は患者とやりとりしながら、患者の話をパソコンで入力していたという。AIが薬剤師と患者の服薬指導のやり取りを音声で取り込むことにより、薬剤師は患者としっかりと向き合って服薬指導に集中できる。以前に比べ患者とのコミュニケーションに集中できる環境が改善した。
さらに大槻氏は、「AIが自動生成した薬歴に、薬剤師が患者さんの仕草や表情から感じ取った情報を付加することでより質が高い指導が可能となり、薬歴もより漏れなく記載することができるようになった」と語る。
コスモファーマ人事グループリーダーの吉田亮平氏は、AIアシスタント機能について「患者さんの状況に合わせた適切な指導を提案してもらえる」と述べ、実務実習生や経験の浅い薬剤師に対して、服薬指導を行う際の教育ツールとしても有効との考えを示す。
その上で「幅広い世代の薬剤師に受け入れられるような直感的で分かりやすいシステムになっている。薬剤師は投薬準備から薬歴完了までの業務をワンストップで行える」と利点も語る。
AIの薬剤師業務への活用について、大槻氏は「今後外来患者が減り、在宅患者が増える。在宅の報告書で残業している薬剤師も多く、在宅業務もAnyCOMPASSで自動化・簡易化できればもっと業務を効率化できるのではないか」と提案する。今後の薬局像については「薬剤師の個性が生きる時代になる」との見方を示し、「患者さんが薬剤師に相談して良かったという感動体験を提供し、薬剤師の必要性を表現したい」と意気込む。
一方、吉田氏は、「AIによって薬剤師が適切に評価される時代に入り、患者に選ばれる薬局の基準も立地から個性に変わる。薬剤師が活躍できるチャンスにつながる」と述べ、AIを活用した薬局の可能性を今後も追求していく考えを示す。
コスモ調剤薬局西ノ内店(三菱電機デジタルイノベーション)
https://www.mdsol.co.jp/melphin/