微化研微生物化学研究センター長・赤松穣氏
微生物化学研究会と米国の非営利官民パートナーシップ「リリー結核創薬イニシアチブ」は28日、有効な治療薬のない超多剤耐性結核菌(XDR‐TB)に効果を示す化合物「CPZEN‐45」の共同開発を非営利目的で開始したと発表した。CPZEN‐45は、動物実験で10剤の抗結核薬が効かない超多剤耐性結核菌に高い効果を示しており、2012年には前臨床試験を終了させる予定だ。都内で記者会見した微化研微生物化学研究センター長の赤松穣氏は、「できるだけ早く治療薬を患者さんのもとに届け、世界の人々の健康に貢献したい」と語った。
多剤耐性結核菌(MDR‐TB)は、第一選択薬のリファンピシンとイソニアジドの2剤に耐性を持つ結核菌。これら2剤に加え、第二選択薬のニューキノロン系抗菌薬と抗結核注射薬の1種類以上にも耐性を示すのが超多剤耐性結核菌。
既にXDR‐TBの感染例は、世界50カ国に拡大しているとされ、国内でも多剤耐性結核菌のうちXDR‐TBの割合が30%に上るなど、世界的に深刻な問題となっている。
ただ、これまで有効な治療法は存在しなかったのが現状。こうした中で赤松氏らは、97年から既存の抗結核薬と交差耐性を示さない新規化合物の探索を開始。その結果、放線菌の培養液から新しい作用機序を持つカプラザマイシンを発見。さらに誘導体研究を進め、CPZEN‐45を見出した。
CPZEN‐45は、抗結核薬10剤に耐性を示すXDR‐TBを感染させた動物実験で、非治療群に比べて菌量を100分の1に減少させる強い抗菌活性を示した。また、感受性結核菌を感染させた実験では、第一選択薬との併用で菌量を1万分の1に減少させるなど、高い相乗効果を示すことが分かった。
この結果を受け、微化研とリリー結核創薬イニシアチブは、非営利目的にCPZEN‐45の共同開発契約を締結。今後、米イーライリリー、米国国立衛生研究所(NIH)、米国感染症研究所(IDRI)との共同開発を開始する。
CPZEN‐45の薬剤供給は、WHOの承認委員会「グリーン・ライト・コミッティー」によって行われる見通し。この委員会は、適切な薬剤入手を目的に、世界各地の結核治療を調査する。その結果、WHOガイドラインに沿った多剤耐性結核の治療が行われていれば、WHOの事前承認プログラムとして、製薬企業が安価に医薬品を提供するというもの。
リリー結核創薬イニシアチブ、ゲイル・キャッセル氏
リリー結核創薬イニシアチブのゲイル・キャッセル氏は、「優れた化合物を寄付してくれた微生物化学研究会の寛大さにより、超多剤耐性結核菌に対する最初の治療薬になる可能性が出てきた」と期待を述べた。
赤松氏は「超多剤耐性結核の患者は、米国のみならず中国、ロシア、インドに集中しているので、全世界で臨床試験を行わなければならないだろう。WHOなどの支援を期待したい」と語った。
リリー結核創薬イニシアチブは、米イーライリリー社の慈善事業として、07年に設立された非営利の官民パートナーシップ。このイニシアチブに対し、同社は50万種類の化合物ライブラリーを開示しているほか、創薬技術の提供なども行っている。