微生物化学研究会主任研究員 野田 秀俊
新薬創出の成功率低下が問題となる中で、新規化合物群の迅速かつ効率的な供給という医薬化学における有機合成化学の役割が、ますます重要となっている。特に機能性分子候補の数は10の60乗以上とも言われる膨大な数に上るのに対し、これまで人類が手にしてきた化合物数はそのごく一部であることから、新規ケミカルスペースを開拓する手法の開発が望まれている。
本研究では、特に「非天然型アミノ酸の触媒的合成法の開発」を通じて、[1]合成化学とペプチド化学をつなぐ触媒反応の開発[2]環状アミンの新規合成法の開発――という二つの課題に取り組んだ。今後は、開発した分子技術を基盤として機能性分子創出へとつなげていきたい。
新しい分子モダリティとしてペプチドを用いた創薬研究が注目されている。非天然型アミノ酸をペプチド鎖へと組み込むことで、分子の構造多様性を大幅に拡充可能である。一般にペプチドの化学合成は機械による固相合成により達成される。そのため適切に保護されたビルディングブロックの供給が合成化学とペプチド化学のシームレスな連携に必須と言えるが、この要件を満足する方法論は極めて少なかった。そこで、新規触媒反応の開発により、非天然型アミノ酸を組み込んだペプチドを迅速に供給可能な方法論を確立した。開発した手法は、中分子医薬品創製への貢献が期待される。
近年の創薬化学は、より好ましい物性獲得を目指して平面性化合物からの脱却を図った化合物デザインを推進している。環状アミン類は特に重要なビルディングブロックと位置づけられ、様々な合成法が開発されている。
本研究では、これまで活用例の限られていた高反応性活性種の新しい簡便生成法を見出し、既存手法ではアクセス困難な環状アミノ酸の合成法を開発した。本手法により特徴的なトポロジーを有する高度に官能基化された環状アミンが供給可能となった。