河合忠(国際臨床病理センター所長・自治医科大学名誉教授)
平成17年12月1日、政府は医療制度改革の大綱を決めた。「健康日本21」の旗印に続いて、生活習慣病予防のために40歳以上全員が健康診断(健診)を受けられる態勢づくりを目指す方針を打ち出した。しかも、公的医療保険組合や地方自治体に対し、健診と保健指導の実施を義務付ける方針のようである。それ自体は大いに結構なことである。だが、果たして健診機関の質は担保されるのであろうか。また、住民の受診率を上げるための方策はあるのか。
去る2005年12月5日、朝日新聞夕刊の一面に、福岡県内の胃がん検診でのがん発見率が健診機関によって大きく異なることが報道され、X線撮影方法と技術の差、要精検者への説明や働きかけの不充分さ、などが重要な要因と考えられるという。
自治体が検診機関に発注する場合、対象となる候補検診機関の質と能力を充分に調査することが必須である。果たしてそうした適切な調査が行われているのかが疑問視されている。健診・検診を担当するプロの職員の意見を重視せずに、安価な予算額を売り物にしている機関に発注する、との噂や嘆きが多く聞かれる。自治体の経済状態が悪化している状況の下で、“安かろう、悪かろう”の事業に流れているとすれば、何のための健診・検診なのか。潜在するがん患者や生活習慣病予備軍が、こうした健診・検診機関で見逃されているとすれば重大なことである。
画像診断検査に限らず、血液・尿・組織細胞などの検体検査でも同様に、世界中で、近年、検査室の質と能力が改めて問われていることは、前回述べたとおりである。古くから精度管理に真摯に取り組んできた老舗の健診機関が、一部の新規参入機関の“価格破壊攻勢”に苦しんでいる。そうした状況を打開すべく、日本人間ドック学会は従来実施してきた人間ドック専門医の認定に加えて、2004年度から健診施設認定事業を開始したことは、悪徳健診機関の駆逐の一助として期待されている。
最近、一級建築士による耐震強度計算書の偽造が大きな社会問題となっている。保健医療も人の命にかかわるだけに、プロとして国から認定された免許取得者に許された業務である。それだけに高いモラルが要求されるし、生涯を通じて自分自身の知識と技術を磨く義務が負わされている。改めて検診・健診の社会的重要性を認識し、高邁なモラルをもち、質の高いサービスを提供する努力を怠ってはならない。