新型コロナウイルス感染症との戦いが新たな段階に入っている。これまで世界的に進められてきたワクチン接種に続き、注目を集めてきた経口治療薬が武器として加わる可能性が出てきた。
米メルクは、新型コロナウイルス感染症治療薬として開発中の経口抗ウイルス薬「モルヌピラビル」の第III相試験の中間解析で、軽度から中等度の患者の入院・死亡リスクを約50%減少させたと良好なデータを公表した。
この結果を受け、米国食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可の申請を行う予定とされ、年内には新型コロナに対する初の治療薬が登場しそうだ。日本政府もモルヌピラビルの購入を検討しているとの報道もある。
一方、経口薬に関しては、日本の塩野義製薬も急ピッチで開発を進めており、9月末には新型コロナウイルス感染症の経口治療薬「S-217622」の国内第II/III相試験を開始している。メルクの薬剤がポリメラーゼ阻害薬であるのに対し、同社の薬剤はウイルスのプロテアーゼを標的とし、1日1回投与で済むメリットがある。年内の国内承認申請を目指している。
ワクチンとは異なり、経口治療薬の開発ではメガファーマのわずか後ろを国内勢の塩野義が追い上げている状況に大きな期待が集まる。特にワクチンの輸入、供給をめぐる混乱から、国民には国産の経口治療薬を求める声が強かった。
緊急事態宣言が解除され、急速に感染状況が落ち着きを取り戻す中ではあるが、自宅で簡単に服用できる経口薬の確保は来たるべき「第6波」に向けた大きな武器となる。既にワクチンの2回接種完了者が国民の6割を超え、3回目接種を行うことが決まった。そこに、軽症者向け経口薬が確保されるとなれば、第6波の景色は医療崩壊に陥った第5波とはかなり違ってくるのではないだろうか。
感染が判明してもワクチン効果で軽症か無症状で済む人が多くなり、軽症者には迅速に自宅やホテルで経口薬を投与することで入院患者の減少にもつながり、医療体制が確保できる――。やや楽観的かもしれないが、次の波をできるだけ小さくするベストケースも十分考えられる。
ワクチンについても、来年には米ノババックス製品が新たに供給される見通しで、国内勢も塩野義のワクチンが今年度内の供給を目指しているほか、KMバイオロジクスの不活化ワクチンも来年度中に前倒しでの実用化が見込まれるなど、国産ワクチンの選択肢も視野に入ってきた。
第5波では救急車が来ても入院できず、自宅療養を余儀なくされた人が相次ぎ死亡する悲劇的な事態が発生した。その反省を生かすためにも、次の波はワクチンと治療薬という武器をうまく使いながら乗り切りたい。それが機能するかどうかは、感染が落ち着きつつある今からの準備にかかっている。