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【医薬翻訳におけるAIの現状と課題】アジア太平洋機械翻訳協会

2022年10月17日 (月)

MT普及へ製薬は積極参加を‐アジア太平洋機械翻訳協会 隅田 英一郎会長に聞く

隅田氏

 機械翻訳(MT)を普及促進するために関係企業などが参加するアジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)。隅田英一郎会長に、AAMTの活動と製薬業界でMTを活用する意義を聞いた。隅田会長は、62法人会員にまだ製薬企業の参加はないが(社員の個人会員はいる)、AAMTを通じて産業の垣根を越えて得られる多様なノウハウは、医薬品開発関連文書の翻訳の精度と効率を高め、開発スピードを後押しする可能性があるとして、製薬企業に参加を呼びかける。


新薬開発の効率化に貢献

 ――AAMTはどんな組織で、どんな活動をされているのか。

 MTの課題を話し合い、いかに普及するかについて、ディベロッパー、事業者、政策担当者の3者が話し合える場として、1991年4月に「日本機械翻訳協会」として設立されたのが最初です。

 MT自体は75年前くらいから始まり、今から30年ほど前に盛り上がりを見せ、産業応用が視野に入ってきました。その際、今の経済産業省に、関係者が話し合える組織が必要とのことで相談し、立ち上げたのが経緯です。

 MTには国際組織「国際機械翻訳協会」(IAMT)があり、その傘下に欧州、米国、アジア太平洋の組織があります。われわれ「アジア太平洋機械翻訳協会」(AAMT)はその傘下で活動しています。今の名称になったのは92年のことで、2020年4月に一般社団法人化しました。

 年2回会員誌を発行し、年次大会などの活動を行っていますが、それは産業の垣根を越えてMT導入事例や活用ノウハウを共有し、いかに人間による翻訳とMTを融合させて業務の精度、効率化を高めていくのか、使用上の法的課題は何かなどについて学び合う場になっています。

 MTに対する関心は高まっており、私が会長に就任した18年から、法人会員数(現在62)は倍になりました。個人会員には学者、技術者、開発者、翻訳者など105人が参加しています。

 MTは各企業、翻訳会社、そして翻訳者がそれぞれで使用されており、各社が協力し合ってより良い翻訳を作っていくWin-Winの関係にあることがとても大切だと考えています。ヒトと機械が融合し、より良い仕事につなげていくのが本来のあり方です。

 ――産業応用への関心が高まっているということか。

 大きく進展したのは16年のAIを活用したニューラル機械翻訳(NMT)の登場からです。皆さんにはGoogle翻訳が例として分かりやすいかもしれません。それまでは長らく、精度などの面から実利用に向かないという壁があり、大方の人は使えないと見ていましたが、NMTはその壁を軽やかに越え、貿易の基本である英文ビジネスレター作成や特許翻訳などへの応用が進みました。各翻訳会社でも導入が進みました。かつてのMTに投資し、失敗した記憶を持つ人も少なくないのですが、会員誌や年次大会などを見ると成功例が出てきており、活用の機会は広がり、関心は高まっています。

 ただ、NMTは完璧であるのが当然と思われている方がいて、誤った使われ方をしていることも実際にあります。そこで9月に「MTユーザーガイド 機械翻訳で失敗しないための手引き」を作成しました。MTに対するリテラシーを持っていただくのが目的です。機械翻訳の情報技術とプロの翻訳者の双方の作業を理解し、MTを適正に利用していただくための留意点を簡潔にまとめました。ぜひお読みいただければと思います。

 ――製薬業界におけるNMT活用の意義は。

 いくつかの新薬開発を行う企業からは取り組み事例、成功事例が発表され、成果を上げています。例えば、NMTの導入で翻訳に1カ月かかっていた文書が、半月になったという事例もあります。それは、時間を圧縮した分だけ人件費などのコスト削減につながったことを意味しますが、製薬企業にとっては新薬開発、承認申請に必要な文書に応用すれば、時間を圧縮した分だけ、患者さんが心待ちにしている新薬の開発をスピードアップすることにもつなげられると言えるかもしれません。

 ――製薬業界特有の訳し方、専門用語は多いが、対応可能か。

 汎用エンジンの精度を上げるため各社取り組んでいますが、業界ごとの専門用語に対応できる専用エンジンも業界ごとに作られています。専門のシステムが開発され、翻訳会社でも使用され、進化しています。

「共創」で新たな価値創出

 ――AAMTとしては製薬企業にも参加してほしいと。

 ぜひ参加してほしい。MTのどこに注意して利用することで、効率的、かつ成果を上げることができるのかを知ることができ、研究開発を後押しすることにもつながるはずだからです。海外のIT業界ではMTの利用は進んでいます。産業全体がグローバル化していく中で、製薬業界も将来的にはMT利用が必須になるでしょう。そこを見据え、他産業の利用ノウハウを知っておくことで、より良い取り組みにつなげることができるようになります。

 参加企業が増えれば、業界内での情報交換できる機会が増え、ノウハウも蓄積され、より精度と効率の高い翻訳につながります。参加していただくことにより得られる価値は大きいと思います。

 ――ではメッセージを。

 NMTは、各社の対訳データと深層学習から成り立っています。各社が保有する対訳データは宝です。各社に眠らせておくのではなく、システムのデベロッパーに提供していただくことで、NMTの精度はさらに改善されます。

 お互いに「共創」することで、新しい価値を創出できるのです。皆さんの力でNMTを育てていきましょう。

MTユーザーガイドを公表

MTユーザーガイド

 アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)は9月、機械翻訳(MT)を利用する際の留意点をまとめた「MTユーザーガイド 機械翻訳で失敗しないための手引き」を公表した。

 誤った使い方で生じた誤訳が社会問題化したケースがある。著作権等の法的問題も生ずる恐れがある。そこで、MT利用者全てを対象に「MTリテラシー」を身に着けてもらおうと作成された。MTを利用して情報を発信しようとする人、MTを利用した人手翻訳(ポスト・エディット)を翻訳会社に依頼しようとする人は「必読」としている。

 内容は4章。MTの仕組みを解説した「MTの技術的要素」、正確性、流暢性、用語、スタイルの翻訳要素を解説した「翻訳品質」、翻訳会社との合意形成、作成プロセス、翻訳業務関連国際規格ISO17100、同18587を解説した「翻訳作成プロセス」、MTで生じ得る法的問題を解説した「法律」からなる。

 A4判26ページ。AAMTのHPからダウンロード。

アジア太平洋機械翻訳協会
https://www.aamt.info/

MTユーザーガイド
https://www.aamt.info/act/Mtuserguide



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