九州大学病院肝臓・膵臓・胆道内科の研究グループは、名古屋大学と理化学研究所などとの人工知能(AI)技術を臨床研究に応用した共同研究から、急性肝障害患者は治療効果(治療反応性)により3集団に分類できることを発見した。さらに、初診時の血液検査などの臨床情報を用いることにより、患者がどの集団に属するのかを予測できるAIモデルの開発に成功した。
急性肝障害の原因はウイルス性肝炎や薬物性肝障害など様々だが、その一部は肝機能が急激に低下し急性肝不全に進展し、その一部は内科治療に反応せず意識障害を伴う昏睡型に重症化する。急性肝不全昏睡型の救命率は約30%にとどまるため肝移植が必要となるが、急性肝障害から急性肝不全昏睡型へ数日で急速に進展することもあり、緊急性が非常に高い。しかし、内科治療への反応性は予測できず、高次医療機関や移植施設への搬送基準は明確でなかった。
今回、研究グループは、九大病院に入院した急性肝障害・急性肝不全319例の入院後1週間の広範な臨床情報を最新の理数科学技術を駆使して解析した。まず、どのような人が内科治療に反応しているのかを理解するため、患者の健康状態を数値化することを試みた。
具体的には、AI技術を用いて最終的に移植を要するか否かを予測するため、どの因子が重要かを解析した。その結果、急性肝障害の進行状態を反映する指標として、血液検査項目の一つであるプロトロンビン時間活性率(PT%)を活用できることが明らかとなった。
そこで、AI技術を用いて入院後7日間のPT%の時間経過にどのようなパターンがあるかを分析した。その結果、急性肝障害患者を臨床経過と予後が異なる6グループに分類できることを見出した。
また、この6グループは、▽経過観察のみで自然に回復するグループ1、2(一般病院で経過観察が可能な患者群)▽内科治療に反応し回復するグループ3、4(高次機能病院へ搬送すべき患者群)▽内科治療に反応せず移植を要するグループ5、6(移植施設へ搬送すべき患者群)――の合計3集団に分けられた。特に肝移植を受けた患者と死亡した患者はグループ5、6の集団に含まれていた。
さらに、AI技術を駆使することで、初診時にどの患者がどのグループに属するかの予測を試みた。その結果、初診時の血液検査などの臨床情報のみから、患者がグループ5、6であるかどうかを約90%、グループ3、4であるかどうかを約80%という高い精度で予測できた。また、個人レベルの治療反応性を予測する技術の開発にも成功した。
今回、どの急性肝障害患者が内科治療に反応するかを定量的に理解し、予測するための手法を開発してことになる。この成果は、経験の少ない医療機関でも治療反応性を予測できるようになり、適切な医療施設で最適な治療を迅速に行うことが可能となる。これで、急性肝不全患者の救命率を大幅に向上させることが期待される。