
日本医療機器学会が設立されてから、既に1世紀以上が経過した。この間、国産医療機器の品質向上を目指し、医療機器製造販売業者と医療関係者が手を携えて規格作りや国際交流の推進に取り組むと共に、医療機器を取り扱う人たちの教育や資格認定なども行ってきた。医療機器学会は今後どのような活動を進めていくのか、理事長の高階雅紀氏(大阪大学医学部特任教授)に、これまでの歩みも含めて考えを聞いた。
医療機器学の確立が念願‐研究対象は機器に係る全領域
――学会を名乗った組織である以上、果たすべき役割は品質向上だけでなく、もっと広いのではありませんか。
高階 100年余り前に発行された学会誌の第1号を読みますと、先人の方々が学会を立ち上げた意図について、いろいろと面白い記事が掲載されています。
一つには、医療機器研究は医学における重要な学問領域であり、医療機器学は薬学と共に医療を支える柱であると宣言しています。第二として医療機器学を確立していくには製造業者だけでなく、医療関係者など多職種が共同で当たる必要があるという点です。第三には人材教育、つまり医療機器を開発、製造するだけでなく、機器に関わる多くの人たちの教育・啓蒙にも取り組まなければならないということです。
この100年間、これら三点の実現を目指して活動を続けていると思っています。
――いま言われた三つの目標を達成度という面から見ますと、取り組みが不十分な部分は何処でしょうか。
高階 そこは学問ですね。100年前に諸先輩が医療機器学は医療を支える学問と言っておりますけれど、残念ながら薬学と違って、大学に医療機器学という講座がありません。その点が、100年前の先輩の言葉をまだ実現できてないところかなと私は考えています。
ただ医療機器学と言う場合、何処から何処までが医療機器学の範囲なのか、議論になるところかも知れません。私自身は医療機器を開発、製造する段階から使用して廃棄するところまで、つまり医療機器が生まれてから使命を終えるまでの全てのステージに対して、医療機器学としてアプローチする価値があると考えています。
さらに言えば、製造する前にニーズを調査するマーケティングがあり、その後に開発、製造、繰り返し使う機器であれば再生処理、特に今はSDGsの時代ですから廃棄物を減らして再利用を進める技術、さらに流通ですね。それらをすべて包括して、私たちの学会の研究対象になると思っています。
――医療機器学の確立という点ですが、どのように進めようと考えていますか。
高階 せっかく先輩たちが薬学に並ぶ学問と宣言していますので、設立100周年を契機として医療機器学という本を作ろうと考え、ワーキンググループを立ち上げています。
――確かに医療機器に携わろうという人にとって、足がかりになる入門的な本があるといいですね。
高階 例えば、電気メスについて大学の医学教育ではどういう仕組みで動き、なぜ切れて、どのようなリスクがあるのか等を学ぶ機会がないのです。卒業して医師になり、先輩が使っているのを見ながら習得していく、ほぼオン・ザ・ジョブ・トレーニング(職場内訓練)なのです。そういう事情に鑑みても、きちんと学問として体系化することは大事だと思います。
(【その3】に続く)
▶一般社団法人 日本医療機器学会 発展の歴史と今後の方向‐高階 雅紀理事長に聞く【その1】