広告審査業務を効率化するAIエージェント
株式会社EdgeXは、景品表示法(景表法)・薬機法に関わる広告審査業務を効率化するAIエージェント「ヤッキくん」を提供している。製品パッケージ、ブランドサイト、店頭POP、CM説明文などを、通達・ガイドラインや各社の社内ルールに基づいてAIがチェック。業務の効率化と品質向上を同時に目指す。小林製薬株式会社との約1年間にわたる共同開発で実用化に成功し、大手医療機器メーカーへの導入も進むなど、ヘルスケア業界における広告審査DXの先進事例として注目されている。
広告審査業務の課題に対応
国内のインターネット広告市場は拡大を続け、2024年度の広告費は前年比109.6%の3兆6517億円に到達。前年から3187億円増と大幅に伸長した。市場拡大と並行して、景表法・薬機法の改正や運用の厳格化も進み、企業が審査すべき広告案件は増加している。さらに規制強化により、1件あたりの審査もより慎重で詳細な検証が求められ、担当者の確認作業は年々増加。業務負荷の増大が多くの企業で深刻な課題となっている。
EdgeXはこうした課題に対し、生成AI技術を活用した「ヤッキくん」を開発した。EdgeX代表の高村は「WEB広告の増加に伴い、薬機法に基づくチェック作業が大きな負担になっているヘルスケア企業が多い」と指摘する。顧客の声を踏まえ、自律的に作業を進めるAIエージェントを活用し、景表法・薬機法に対応できる実務向けシステムを構築。EdgeXは「AI技術を活用してヘルスケア業界の構造的課題を解決し、健全な市場環境の構築を通じて社会に貢献する」ことを経営理念に掲げ、法規制遵守の複雑化と人材不足という二大課題に対してテクノロジーで支援している。
「ヤッキくん」4つの特徴
「ヤッキくん」は、景表法・薬機法の各種ガイドラインに加え、企業が扱う製品情報や自社ルールを取り込み、複雑な審査や独自ルールにも対応する広告表現チェックAIだ。業務用チャットから資材案を送信すると、AIが関連情報を参照し、コンプライアンスレビューおよびメディカルレビューを支援する。
1)AIによる安定した高精度チェック
大規模言語モデルと企業固有のナレッジを組み合わせ、継続的なフィードバックで精度を磨く。RAG(検索拡張生成)などを活用し、実務で使える具体的な指摘・提案につなげる。
2)スピーディーな回答と根拠提示
審査結果だけでなく、判断根拠も示すことで担当者の理解と意思決定を支援。医薬品等適正広告基準、業界ガイドライン、薬事承認書、自社ルール等との乖離を確認し、改善案まで提示する。
3)追加学習できる柔軟性
各社の薬事承認書や社内ルールを取り込むことで、ナレッジを蓄積し次回以降の審査に反映。運用を重ねるほど精度と効率が高まる。
4)多様なファイル形式に対応
テキストに限らず、PowerPoint、Excel、Word、PDFなどの文書から画像データまで幅広く扱える。多様な広告媒体のチェックを想定した機能となっている。
小林製薬との共同開発で実用化
EdgeXは小林製薬と共同で開発を進め、約1年間の概念検証(PoC)を経て、一部カテゴリで実運用を開始している。小林製薬の広告審査を担うマーケティング本部では、近年、広告審査件数が約3倍に増加し、WEB広告の審査比率も約20%増加。情報量の多いWEB広告が増えることで、将来的な負担増が課題となっていた。
また同社は、医薬品から芳香消臭剤、食品、スキンケア、衛生・家庭雑貨品まで多カテゴリ・多品目を扱い、成分組成によって表現可能な文言が変わる難しさがある。審査対象の形式もテキストから画像まで多岐にわたり、「業務量の増加」と「複雑な審査」を同時に解決することが求められていた。
PoCでは両社でプロジェクト体制を構築し、社内に蓄積されていた自社ルールやレギュレーションデータの整備から着手。構造化したデータを「ヤッキくん」に取り込み、実務担当者が利用しながら精度検証と運用課題の抽出を実施した。定例会で課題を共有し、プロンプトやデータ整備を迅速に改善。製品特性・成分を踏まえた判断が不可欠な景表法の審査においても、製品情報を取り込むことで効率化を進め、広告表現と製品情報の整合チェックからエビデンス確認まで、PDCAを回しながら実用レベルに引き上げた。
両社は2026年度から3カ年で、増加する広告審査業務の効率化と精度向上を目的に共同開発を継続する。マーケティング本部に加え、製品開発を担う部門でも制作段階の早期チェックとフィードバックを実現し、手戻り削減を目指す。さらに、効能効果や安全性を踏まえた訴求力のある標榜表現の検討支援へと対応領域を拡大し、関係部署全体への導入を進める計画だ。
小林製薬 マーケティング本部 表現品質Gの笠嶋氏は「AIによる広告審査の効率化は長年の課題だった。学会や展示会で情報収集してきたが、景品表示法の複雑な審査も効率化できるAIにはなかなか出会えなかった。ヤッキくんのプロトタイプを試した際、審査結果が私たちの指摘ポイントと合致し可能性を感じ、共同開発を進めてきた」と振り返る。さらに「製品情報と照らし合わせて判断するには社内ノウハウやデータとの連携が必須で、その点でヤッキくんの事例は先進的」と評価する。
同本部の金村氏も「スキンケアでは景表法と薬機法の両方の知見が必要だが、専門知識は属人化していた。ヤッキくんで個人的知識を“会社の財産”に変えられる手応えがある」と語る。
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大手医療機器メーカーへも導入
EdgeXは大手医療機器メーカーにも「ヤッキくん」を導入した。同社はDX推進の一環として、生成AIを活用した薬機法対応支援エージェントの導入を決定。厳格なコンプライアンス体制を土台に、エビデンスに基づく資材作成とプロモーションの質的向上を目指す。PoC検証と個社向けカスタマイズを経て実業務への適用が実現した。
医療機器業界では、医薬品等適正広告基準、業界ガイドライン、薬事承認書、社内ルール等に基づくチェックが不可欠だ。「ヤッキくん」は業務用チャット上で資材案を受け取り、関連情報を参照しながらレビューを支援する。社内に蓄積された薬事承認情報や独自ルールを取り込むことで、属人的で時間を要していた資材作成プロセスを改善し、正確性とスピードの両立を図る。
同社RA担当者は「ヤッキくんの導入によって、限られたリソースでもスピードと品質を両立した資材作成が可能になると確信ができた。薬事承認情報や社内ルールをもとにAIが支援することで、コンプライアンスを確保しつつ戦略的かつタイムリーな情報発信を実現したい。EdgeXの技術力とサポートにより、実運用でも高精度なアウトプットが得られている」とコメントする。
EdgeX取締役兼CTOの板野智彦氏は「医療機器業界のリーディングカンパニーにヤッキくんを導入いただけたことを嬉しく思う。豊富な薬事承認情報と自社ルールを学習データとして活用し、実務ニーズに即した高精度なエージェント型AIを実装できた。導入を通じ、生成AIが薬事対応で実用レベルに達したことを示せた。今後も機能改善を重ね、ヘルスケア業界のDX推進に貢献していく」と意欲を示す。
EdgeXは「ヤッキくん」を通じ、法規制遵守の複雑化と人材不足という二大課題に向き合い、企業の持続的成長と消費者保護の両立を支援していく。



















