国内治験で被験者リクルートメントが課題となっている。これまでは病院受診患者から、治験の条件に合った患者を探し、患者数が多い実施医療機関を選定してきたが、治験計画(プロトコル)の複雑化や生活習慣病から患者数が少ない難治性疾患の治験へとシフトする中、目標とされる症例数を決められた期間までに集積することが難しくなってきた。医療機関を受診していない院外患者をいかに治験に参加してもらう仕組みづくりも焦点となっているが、一般者への治験啓発の遅れもあり、そのアプローチは未だに定まらず、患者による自発的な治験参加や、患者が治験にまた参加したいと思える環境が求められている。
治験コストの約3割出費‐4人に1人の脱落率
国際共同治験の日本パートや国内に限定した治験の被験者リクルートメントをめぐっては、治験依頼者に大きなプレッシャーがかかってきている。昨年1年間に開始された830試験のうち、その8割の試験は日本だけで目標症例の全患者を集めないといけないプロトコルになっており、半分以上が第III相、製造販売後の第IV相と大規模試験で占めていた。
さらに、ある調査結果では被験者リクルートメントが治験全体にかかるコストの約3割を占有する一方、全試験のうち約8割が症例登録で目標とする期間までに組み入れができていなかった。
その原因を探ってみると、全体の半分近くの施設が約束した症例数を達成できておらず、登録した4人に1人が治験参加後に脱落している実態が明らかになっている。開発成功確率を向上させるために、プロトコルを複雑化していることも被験者リクルートメントを難しくさせている要因だ。被験者リクルートメントが治験全体の進行に大きな影響を及ぼしているといっても過言ではない。
国内製薬企業も被験者リクルートメントの重要性を認識し始めているが、各社の手法を見ると従来から大きな変化は起きていないようだ。これまでの経験則に依存した手法では、被験者組み入れを達成することができなくなっているにもかかわらず、「以前実施した治験で患者を集めることができたので、次の治験でまた同じ施設で治験を実施する」といったような甘い見通しから治験実施医療機関を選定するケースが行われているという。
患者中心の治験環境‐国内では未成熟
新薬開発における治験でプロトコルを設計する際には、ターゲットとする患者群の検討、最適な患者数や医療機関数の設定、どういった患者の集め方をすればいいのか、緻密に分析していく必要性が生まれている。当然、病院を受診した患者だけでは絶対数が足りず、未受診の潜在的な患者に治験へと参加してもらうアプローチが欠かせない。
そこで生まれてきたのが、患者中心の治験を実現するという取り組みだ。被験者を集めるというアプローチから、治療法を探す患者が治験情報にアクセスし、条件が合えば早期に参加できる道を与える仕組みをいかにつくり上げるか。製薬企業や医療機関が行う治験実施のプロセスを改善するだけではなく、患者が治験に参加しやすい形にプロトコルを再考する。そのためには、一般者に対する治験啓発を行い、治験の意義を伝えて認知度を高めていく必要がある。
最近ではインターネット上での治験広告も増えてきた。患者と製薬企業、医療機関のコミュニケーションが求められる中、こうしたデジタル的な手法は活用すべきだろう。
ただ、インターネットでの情報提供においては、懸念すべき問題もある。ポータルサイトの検索エンジンで「治験」と入力すると、「治験バイト」「ラクに高収入を稼げる治験モニター」などのウェブサイトが上位候補にズラリと出てくる。患者を金銭で治験に誘引することはガイドライン上、規制されているにもかかわらず、治験に対して誤った印象を与えかねない信頼性が低いウェブサイトが、制限されることなく、誰からも目に触れられる形で、一般者に対して情報を提供しているのが現状なのだ。
被験者リクルートメントを支援する質の高いPRO(Patient Recruitment Organization)だけが選別され、製薬企業、医療機関、SMO、CRO、PRO、広告代理店などが連携し、被験者リクルートメントによるトラブルで医薬品開発が停滞し、患者が不利益を受けることがないように、治験を推進していく体制づくりが望まれている。