日本製薬工業協会が「政策提言2023」を発表した。特許期間中の革新的新薬の薬価を維持する「患者アクセス促進・薬価維持制度」の導入を求めるなど、薬価制度の改革を改めて訴えた。イノベーションの適切な評価が日本の創薬力向上につながる。提言を受けて国は、増え続ける医療費の伸びを抑制しつつ、創薬力を強化する制度をどう設計していくのか。難しい舵取りを迫られる。
岡田安史会長(エーザイ代表執行役COO)は16日の記者会見で、「新薬創出等加算の試行的導入が2010年から始まったが、特例拡大再算定導入や中間年薬価改定などのルール変更が行われ、特許期間中の薬価が頻繁に下がる制度になってしまった」と訴えた。
政策提言では、特許期間中の革新的新薬の薬価維持や、上市後もエビデンス等に基づき価値を再評価する仕組みが必要と提言。薬価の値付け方法も見直し、企業が主体的に新薬の価値を説明して第三者機関が評価する新たな仕組みの導入を求めている。
海外の製薬企業や新興バイオ医薬品企業が日本での新薬上市を後回しにしたり、回避するドラッグラグやドラッグロスが拡大している。日本で新薬の価値を適切に評価することはドラッグラグの解消につながり、患者目線でも重要になるとしている。
ただ、これらの仕組みを導入して薬剤費がやみくもに増えるようでは、国は受け入れないだろう。岡田氏は、新薬開発を重視する企業の視点から「われわれは長期収載品には依存しないことを改めて申し上げる」と約束。特許満了後の速やかな後発品への置き換え、長期収載品の速やかな薬価引き下げなど「メリハリをさらに追求することに異論はない」と述べ、製薬協なりの落としどころを示した。
一方、日本の創薬力を高めるには、薬価制度を改革するだけでは不十分だ。IQVIAの調査によると、世界全体で医薬品開発のパイプライン数が増える中、相対的に日本のシェアは低下している。世界では、新興バイオ医薬品企業がパイプラインの半分以上を手がけ、存在感が高まっているが、日本はその動きから取り残されている。
日本でも機動力が高い創薬ベンチャーの誕生や育成を支援する仕組みが必要だ。国は、22年度の補正予算で創薬ベンチャーエコシステム強化事業に3000億円を計上。このほか、関東と関西にグローバルバイオコミュニティを形作ろうとするなど取り組みを進めているが、形だけに終わってしまってはいけない。実質的に機能する仕組みの創設が欠かせない。
日本は、世界でも数少ない新薬を生み出せる国の一つだが、創薬力にかつての勢いはない。資源の乏しい日本にとって外貨を稼げる製薬産業は重要な存在だ。世界的な創薬競争に勝つために、どこまで国は投資するのか。その本気度が問われている。