昨年10月に厚生労働省が示した医療制度構造改革試案は、要するに団塊の世代が世の中から去り始めるまでを、どう耐えるかという考え方であった。現行制度(昨年時点)でいくと、団塊の世代が80歳近くになる2025年度に医療費は56兆円、対国民所得比10・5%(08年度7・3%)にまで膨張する計算になる。そこで高齢者の患者負担や保険免責制度の創設、診療報酬の抑制策等により49兆円(同9・1%)にとどめる、すなわち20年間で約7兆円規模の自然増抑制を、今年度からスタートさせたいという意図だったと言える。
国民所得やGDPの伸びの範囲内に抑えようとする経済財政諮問会議の民間議員提案も添付し、「こんな厳しい案もあるのだから、この程度の抑制はやむを得ないのではないか」と言わんばかりにも見える。
今年4月の診療報酬改定は、その第一歩となったが、一体何がターゲットになっているのだろうか。医療費の大食らいは“ベッド”にあり、ここが標的にされている。そして、まずは療養病床なのである。
一般病床の機能を急性期病床と位置づけ、その機能を持たない病棟・病床を療養病床へシフトさせる政策が、これまで行われてきた。その結果、現在の療養病床は医療保険適用25万床、介護保険適用13万床の合わせて38万床となっている。ところが昨年11月の中央社会保険医療協議会資料では、医療保険枠、介護保険枠にかかわらず、半分以上の患者が医療をほとんど必要としていない実態が明らかにされた。今なお“社会的入院”が存在することを晒した。
そこで講じられるのが新たな政策。医療保険と介護保険の選択制をやめ、医療保険適用に一本化して約15万床を残し、後の23万床は介護施設へどうぞという考え方だ。介護療養型医療施設は12年3月に廃止、つまりこの時点で移行を終えるという“足ばや施策”である。
4月の診療報酬改定の“概要”に、この点がどう記載されているかというと、[1]患者の特性に応じた評価を行う[2]両保険をキッチリ分離する[3]医療区分及びADLの状況による区分に基づく患者評価の導入――といった内容だ。
重要なのは、看護・介護要員、施設基準はベーシックなところで底上げし、患者のADLに従って、保険給付が行われるようにするという点だ。これで病床数が削減されると踏んでいるのである。恐らく介護保険での経験から、この方が合理性があると見たのだろう。これに関しては大いに評価されてしかるべきと思われる。
だが病床改革は、これと同時に一般病床、さらには精神病床でも構想されていることを関係者は知っておくべきだ。精神病院では、平均在院日数1000日超の病院があるとされているから、改革は必至となろう。
また、一般病床は大いに危惧されるところだ。何しろ療養病床シフトにより、現在90万床まで縮小はされたものの、60万床という裏目標より30万床多い。ここに手がつけられると、今までは療養病床という逃げ道があったが、これからは退路がない。
いずれにしても、最初に数字ありきの改革には違いない。団塊の世代が去った後、「国家財政は健全化したが医療は三流国」といった結果にならぬように、健康・医療・福祉の現場と顔を向き合わせた改革を進めてほしい。