病院薬剤師の地域偏在緩和に向けた取り組みが各地で動き始めた。各地方自治体が進める事業の成果に期待する一方、各病院は薬剤師を呼び込む環境づくりに努めることも重要だ。
先行地域の一つ、石川県では今年度から事業を始めた。基幹病院と地域病院が協力して、各種認定・専門薬剤師資格を取得可能な育成プログラムを個別に構築。新卒等の薬剤師に両病院を行き来しながら主に6年間働いてもらい、能登エリアを中心に地域病院への定着を目指す。国の地域医療介護総合確保基金を財源に、薬剤師の奨学金の返済を支援する仕組みも設ける。
他の地方自治体でも動きが見られる。今年度から、同基金を奨学金の返済に活用して薬剤師を呼び込むほか、薬局や病院、大学の関係者が一丸となって偏在緩和策を考える場を立ち上げるなど、新規事業を始めた県がある。
日本病院薬剤師会は、偏在緩和の具体的な方法を示すことで、各地の取り組みを後押しする。今年2月に作成した「病院薬剤師確保の取り組みの手引き」で、基幹病院から地域病院へ薬剤師を派遣、出向させる具体的な手法を提示した。同基金の活用マニュアルも近くまとまる見通しだ。
先行する地域の取り組みがモデルとなり、日病薬の手引きやマニュアルを参考に多くの地域で取り組みが進むと見られる。以前から薬剤師の偏在は課題だったが、具体的な対策は乏しかった。その時代に比べると隔世の感がある。
薬剤師の偏在は、地域によっては切実な問題だ。3月に発表された厚生労働省の調査で、全国的に病院薬剤師数が不足し、多くの地方でその傾向が顕著であることが示された。都市部から離れると、大学病院でさえ薬剤師の確保に苦労している。ある地方の大学病院では、優秀な人材の確保どころか、定員を満たすことさえままならないと聞いた。一層、厳しい状況に置かれている地方の中小病院は少なくないだろう。
そのような病院にとって、各地方自治体や病院薬剤師会等が進める薬剤師偏在緩和策は歓迎すべきものだ。
もっとも、支援の対象や範囲には限界がある。波及効果を狙ってモデルを提示したり、一部の病院での確保を後押ししたりするもので、全ての病院の薬剤師確保を強力に保証する策ではない。支援策はあくまでも補助的な位置づけで、薬剤師確保には各病院の努力が重要であることに変わりはない。
薬剤師は、働きやすく成長できる環境、働きに見合った待遇を求めている。地方でも薬剤師の増員に成功している中小病院はある。薬剤部長に聞くと、薬剤師の働きが多職種や経営者から認められるように戦略的に業務を展開し、環境整備に注力してきたという。各病院のこうした努力は欠かせない。そこに支援策が加わることで、薬剤師確保に向けた相乗的な効果が生み出されるだろう。