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軽視できない医薬品原薬の供給

2023年06月09日 (金)

 医療用医薬品の供給停止や出荷調整が続いている。一部製薬企業の不正製造による供給停止が市場の品薄を招き、他社の出荷調整を引き起こす構図が主体だが、医薬品製造の出発点となる原薬の問題も軽視できない。

 原薬は、世界的なサプライチェーンで海外から調達することが多く、この流れが乱れると国内の医薬品製造にも影響が及ぶ。国は原薬の調達や国内製造の強化に乗り出しているが、さらなる対策の推進が求められる。

 原薬の供給源は、中国やインド、韓国など世界でも一部地域に限られている。世界の製薬企業が良質で低コストな原薬を入手しようと動いた結果、こうしたサプライチェーンが形成された。環境規制が緩く労働力は安価で、医薬品製造技術を持つ国に原薬製造が集中するようになった。これらの国で原薬製造に問題が発生し、原薬を調達できなくなれば日本での医薬品製造も大きな影響を受けてしまう。

 原薬供給に問題が生じる要因は様々だ。海外の原薬製造所の法令違反や異物混入、採算割れによる供給停止など製造所の内部要因もあれば、事故や災害、原薬製造国の法令改正などの外部要因もある。

 米国食品医薬品局(FDA)によるGMP違反の指摘で原薬供給が止まることは少なくない。急激な需要増が生じ、供給が間に合わなくなる場合もある。

 それまでは環境規制が緩い国でも、公害防止関連法規の改定で規制が強まることもある。製造所が関連法規に従って公害防止対策を取るまで原薬供給が止まってしまう。

 以前、セファゾリン原薬の世界的な供給不足が問題になったが、要因の一つは環境規制による中国でのセファゾリン出発物質の製造が一時的に止まったことだった。リスクは多方面に及び、世界的な供給体制は決して盤石とは言えない。

 こうした背景を踏まえ、国は対策を進めている。2020年度から開始した医薬品安定供給支援事業で、原薬や原材料の国内製造等を担う事業者を支援。22年に成立した経済安全保障推進法に基づき、国家安全保障の一環としてβラクタム系抗菌薬を特定重要物資の一つとして指定した。原薬の国内製造・備蓄体制を整備し、海外からの原薬供給が途絶えても医療現場に切れ目なく製品を供給する体制を30年までに整備する計画だ。

 国の取り組みは進んでいるが、対象は一部の原薬にとどまる。今後は、カテゴリAの安定確保医薬品を対象にするなど、支援範囲の拡大を検討することも必要だ。

 薬価の支援も欠かせない。薬価が下がると原薬価格の値下げ圧力が強まる。そうなれば国内での原薬製造は、ますます厳しくなってしまう。

 日本が医薬品に求める品質基準は世界に比べて厳しく、それが海外から原薬を調達する際の足かせになりかねない。日本の承認基準見直しの検討も求められるだろう。



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