小児医薬品の開発促進に向けた検討が厚生労働省の「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」で始まった。厚労省は、新有効成分、新効能の医薬品は「成人用の開発時に企業判断で小児用の開発計画を策定し、PMDAが確認する仕組みを設ける」ことを提案したが、欧米のように小児用量の開発義務づけまでは踏み込まなかった。それでも製薬業界からは「インセンティブが明確にならないと賛成できない」と反対意見が出て、この問題の難しさが改めて浮き彫りになった。
振り返ると、小児医薬品への問題意識は1990年代から示されていた。特に子供の用法・用量、有効性・安全性が十分確立されていない中で医薬品が投与されている「適応外使用」が問題視され、旧厚生省や日本臨床薬理学会が対応に乗り出したのが2000年前後だった。
当時、「therapeutic orphan(治療上の孤児)」からの脱却が叫ばれていた。厚生省研究班の主任研究者を務め、この問題に熱心に取り組んでいた故大西鐘壽香川医科大学(現香川大学医学部)小児科教授が講演で適応外使用の問題を強く訴え、時間を超過して座長から諫められても「これだけは言わせてくれ」と熱弁をやめなかったことを記憶している。適応外使用を解決しなければならないとの思いをこれほど感じたことはなかった。
その熱意が、日本小児科学会薬事委員会の適応外使用解決に向けたアクションプラン策定、厚生労働科学研究「小児薬物療法におけるデータネットワークの実用性と応用可能性に関する研究班」の処方実態調査、国による「小児薬物療法検討会議」の立ち上げにつながったと言っていい。
現在は、同会議の役割を引き継いだ「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、小児適応の取得は格段に進んだ。さらに19年には成育基本法が施行され、それを受けた基本的方針では「小児用薬剤の開発を推進する」ことが盛り込まれた。
このように、かつてない追い風が吹く中にありながら、約20年前と同じ課題が議論されているのが小児医薬品をめぐる厳しい現状でもある。製薬企業のインセンティブの議論も長く行われてきたが、未だ解決に至っていない。そして今回の検討会での議論である。
岸田文雄政権は「少子化対策」を政策の一丁目一番地に掲げる。子供は社会の宝であり、特に治療法のない病気の子供に薬が届くことは、治療だけにとどまらず、その後の長い人生につながる社会的な価値がある。業界側も長きにわたる課題解決に向け、日本製薬工業協会が小児医薬品の開発を推進、迅速化するための施策を検討し始めた。
これまでの関係者の努力で適応外使用の問題は改善されつつあるが、今度こそ本当の意味での解決につながるのか、国の本気度が試される。