地域枠で入学する仕組みを設ける薬系大学が増えつつある。薬剤師が不足する地域の学生を優遇して受け入れ、卒後その地域で働いてもらうことで、不足の緩和に貢献するのが狙いだ。既に2大学が運用を開始し、2大学が来年度の入学生から導入する。この動きはどこまで広がるのか。
地域枠を最初に導入したのは、2021年4月に新設された和歌山県立医科大学薬学部。定員100人のうち15人を学校推薦型選別の県内枠に割き、入学者には卒後2年間、地域の病院や薬局で研修することを義務づけた。
明治薬科大学は23年度の入学生から地域枠を導入した。定員360人のうち10人を地域枠に割き、薬学部のない14県の出身者を募集。
卒後、出身県で薬剤師として9年間働くことを条件に、年間134万円の授業料相当額を奨学金として6年間全額支給する。
富山大学薬学部は24年度の入学生から地域枠を設ける。6年制の薬学科定員70人のうち10人が富山県出身者対象の地域枠。県の構想では、6年間で総額約710万円の奨学金を貸与し、薬剤師として県内の公的病院や製薬企業、県職員のいずれかに9年間勤務することで全額の返済を免除する計画だ。
神戸薬科大学も24年度の入学生から地域枠を開始する。鳥取、島根、高知、福井の4県の出身者を対象に10人を選抜。卒後、出身県で9年間薬剤師として働くことを条件に年間授業料180万円のうち120万円を減免する。
今後、地域枠を導入する薬系大学がさらに増えてもおかしくはない。少子化が加速する中、学生を集める多様な手段を持つことで大学の経営は安定する。地域医療に貢献する姿勢を示すことで、大学のブランドイメージも高まる。
課題は、地域枠を運営する財源の確保だ。一つの選択肢として、地域医療介護総合確保基金の活用が考えられる。
実際に富山大の地域枠では、学生に貸与する奨学金の財源に同基金を用いる計画だ。同基金の使い道は薬剤師に限られておらず、都道府県の理解と手続きが必要でハードルは高いが、他地域でも大学側が行政に利用を働きかけてみる価値はある。
同基金を卒直後研修に使うアイデアもある。和歌山県立医科大薬学部は、県内推薦枠で入学した学生の卒後2年間の地域研修で、一般的な薬剤師レジデント制度と同様に、給料を受け取り県内の病院や薬局で働きながら研修を受けられる仕組みを構築する。その給料の財源に同基金を活用する構想を描いている。
依然として薬剤師が不足する地域は多い。いずれ医療が必要な高齢者人口は減少に転じ、薬剤師の需要も減少するが、それまでの間何らかの手当ては必要だ。地域枠の設置は、対策の一つになり得る。地域枠を契機に薬系大学と地域の連携が深まれば、大学の教育や研究に好影響が及ぶ可能性もある。