岡山大学学術研究院医歯薬学域 小島 慧一
地球上には太陽の光が降り注いでおり、多くの生物は光を自身の生活に役立てている。私たちヒトも光を見たり感じたりすることで、様々な生理機能(例:視覚、概日リズムの調節)に役立てているが、ここで光を受容する役割を担うのが光受容タンパク質・ロドプシンである。現在では、ロドプシンは幅広い生物種(真核生物、古細菌、細菌、ウイルス)から見出されており、分子種によって多様な性質と機能を持つことが明らかになってきた。近年、ロドプシンは、生理機能を光で人為的に操作する技術「オプトジェネティクス(光遺伝学)」のツールとしても注目されている。私はこれまで、『ロドプシンの物理化学的解析を通じた光操作研究の発展』を目指すため研究に取り組んできた。
光遺伝学の技術基盤を拡大するためには、多様な性質・機能を持つロドプシン分子を取得することが重要である。そこで、多様な生物種に由来するロドプシンの物理化学的解析を行った。
その結果、これまでにない特徴的な性質・機能を示す分子(例:内向きプロトンポンプ、高効率・高安定性ナトリウムポンプ、青色感受性アニオンチャネル)を同定および解析すると共に、それらの性質・機能をもたらす分子機構の解明に成功した。さらには、分子機構の理解に基づいて人為的な変異を導入することで、改変型分子の創成にも成功した。
次に、解析を進めてきたロドプシン分子を生物個体や細胞へと適用することで、多様な生理機能を対象とした光操作ツールの開発に取り組んだ。
その結果、細胞死制御法、神経活動制御法、薬物放出の制御法、膜電位観察法、細胞の生育制御法を開発することに成功した。幅広い生理機能を対象とした光遺伝学ツールの開発により、様々な生理機能に関連する疾患メカニズムの理解が進み、メカニズムの理解に立脚した創薬開発や治療法開発が進むと期待される。今後も、薬学研究の発展に貢献するため、本研究を遂行していく所存である。