慶應義塾大学薬学部 今井 俊吾

6年制薬学教育1期生として2012年に病院に就職した私は、病棟薬剤業務などを通じて多くの薬物療法に関わってきた。その中で、患者に適切な薬物療法を提供するために必要な情報(=エビデンス)が絶対的に不足しているという現状に気づき「薬剤師は自らが臨床薬学研究を遂行し、エビデンス構築に貢献すべき」という信念を持つようになった。大学に籍を移した今でもその思いは変わらず、研究遂行の原動力となっている。一方で、これまでの臨床薬学研究の多くは自施設(または協力施設)のデータを用いて実施され、単施設または少数の施設特有の研究限界(サンプルサイズの不足など)が常につきまとっていた。
そこで筆者らは、医療ビッグデータを活用することでその限界打破に挑んできた。さらに、従来の統計手法の限界を克服するための手段として機械学習に着目し、これらを駆使することで臨床的に有用なエビデンスの構築に取り組んできた。
抗菌薬であるリネゾリド投与後に頻発する血小板減少症を対象とした研究事例を紹介する。この研究では、診療情報データベースを用いることで世界最大規模の症例数確保に成功し、このことで「年齢、腎機能、リネゾリドの投与期間」などの各種パラメータの変動が血小板減少症の発現リスクに与える影響を明確とすることに成功した。

また、機械学習の一つであるDecision Treeモデルを用いることで、重度腎機能障害と長期投与の双方のリスク因子を有する患者が、リネゾリドによる血小板減少症のハイリスク例であることを明らかにした(この成果は北海道大学在籍時に大学院生である井上優希氏と共に創出したものである)
本研究成果のように、データサイエンスを基盤とした臨床研究は今後の臨床薬学の発展に大きく寄与するものである。筆者は、今後も自らが臨床的に価値のある研究成果を創出すると同時に、そこで確立させた手法を用いて薬剤師/医師による臨床研究を支援し、患者アウトカムの改善に貢献したいと意気込んでいる。