薬剤費の抑制を目的とした病院薬剤師の新たな創意工夫を目にするようになった。国が定めた方策ではなく、自主的に考えて現場で取り組みを進めているところが評価すべきポイントと言える。
その一つが、抗癌剤の費用抑制を狙った神奈川県立足柄上病院の事例だ。同院の薬剤師の提案で、医師の抗癌剤処方時に製品規格単位でオーダしてもらうことで残薬の発生を防ぐ取り組みを開始する。
体表面積で算出した投与量通りにバイアルから抗癌剤を抜き出し調製すると、残った分は廃棄され無駄が生じる。バイアル製剤を複数の患者で分割使用するDVOという手法はあるが、医療現場の経済的利点は乏しく、あまり広がっていない。
破棄される抗癌剤の無駄を防ぐため、薬物動態の個人差から10%以内の増減は可能として、投与量を製品規格単位に合わせることを発案した。全体的な投与量減や廃棄削減につながると見られる。この概念を「ゼロ・ウェイスト抗癌剤」と命名し、まずは2剤を対象に自施設で実行する予定だ。
もう一つは、倉敷中央病院の事例。同院薬剤本部は、同院の職員や家族が加入する倉敷中央病院健康保険組合と業務提携し、昨年12月に消炎鎮痛湿布薬のフォーミュラリを策定した。組合員が同院で医療を受ける場合、第1推奨薬の後発品が処方される。
同健保組合の財政は厳しく、保険料率引き上げの通知を受けたことをきっかけに、薬剤師として何かできるのではないかと立ち上がった。第2弾としてヘパリン類似物質保湿薬の後発品推奨も予定している。保険者によるフォーミュラリは新しい視点だ。
いずれの事例も背景にあるのは、国民皆保険制度を基軸とした日本の医療提供体制をこのまま維持できるのかという疑問や危機感だ。
高齢化を背景に医療費が増え続ける中、国家財政がどこまで国民皆保険制度を支えきれるのか。現状の医療提供体制を維持するためには、できるだけ無駄を減らし合理化を進める必要があるのではないか。そんな考えが臨床現場に広がり始める兆しと受け止めたい。実際に別の病院薬剤師からも、調剤したが使用されずに廃棄される医薬品を有効活用する方策の検討を進める予定と聞いた。
国が日本で医薬分業を推進したのは、薬価差による利益増のために薬を多く処方しがちな医師から薬を切り離すことによって、薬剤費を抑制するのが狙いの一つだったと聞いたことがある。制度変更による効果だけでなく、これまで薬剤師は残薬の抑制や、多剤併用に伴う不適切使用の抑制などでも、薬剤費抑制に貢献できることを示してきた。
臨床現場で日々、薬の使用実態を身近に感じている薬剤師だからこそ考え得る方策はあるだろう。各現場で活発に創意工夫が行われ、その取り組みが適切に評価される社会であってほしい。