姫路獨協大学が2025年度から薬学部の入学者募集を停止すると発表した。在籍する全ての学生の卒業を見届けた後、廃部となる見通しという。全国の薬学部で募集停止は初めてとなり、新モデル・コア・カリキュラムがスタートしたばかりの6年制薬学部・薬科大学に衝撃が走った。
同大薬学部の入学者数は18年度以降、低迷を続け、定員100人に対して24年度は回復傾向にあったものの20人にとどまっていた。薬学部側は方針の撤回を訴え続けたが、定員割れは補助金の確保に影響することもあり、大学の方針で押し切られたようだ。その悔しさは余りあると察する。
入学定員の削減ではなく、廃部という決断のインパクトは大学関係者にとって大きい。薬学部新設ラッシュが続いてきた結果、一つの終焉を迎えたと言えるだろう。
今回の募集停止は、薬学部の運営に苦慮する大学の追随を加速させる可能性もある。国は25年度からの定員抑制方針を打ち出すが、定員削減を飛び越えて、大学のトップダウンで廃部という対応に動く可能性も否定できない。
現在、わずかな定員の削減では解決できないほど苦境に追い込まれている大学も多いと見られるが、優秀な薬学系人材を社会に輩出するという大学の使命を考えれば、今後予想される薬学部・薬科大学の適正化は質を確保する上でも避けられないだろう。
足下では全国的な薬剤師不足が続いている。さらに企業に勤務する薬学研究者の減少が話題になっている。薬剤師不足には国も対応に乗り出し、大学側も「地域枠」の創設という形で不足地域に貢献しようとする動きも出てきている。
しかし、薬学の根幹とも言える創薬を担う研究者の確保に向けては、それほど有効な対策は見つかっていないようだ。薬学出身の研究者は、臨床を知っていることが強みとの声を大学関係者からはよく聞くが、現実に企業に多く採用されているのは理学部、工学部、農学部など他学部の学生だという。
薬学の地盤沈下に大学側の危機感は相当に強い。医学など他領域の研究者からも「薬学の姿が見えない」との厳しい指摘が出ている。この現実を真剣に受け止めたい。
薬学の将来を見据えた時に、国公立は研究者養成、私立は薬剤師養成という暗黙の了解があったように思われるが、そうも言っていられない状況でもある。定員といった「入口」の問題を解消し、質の高い臨床薬剤師を養成するのはもちろん、薬学の根幹を担う研究者をいかに輩出するかというもう一つの「出口」の問題を解決していく必要がある。
少子化は避けられない。競争激化による薬学部の適正化は悪いことばかりではないはずである。様々な改革を通じて、薬学全体で社会に優秀な人材を輩出できる基盤の再構築に取り組んでほしい。