経口抗菌薬不足への対応で医療機関、薬局の現場から悲鳴が上がっている。医薬品の供給不足が深刻化していた中、5月に長生堂製薬の川内工場の不適切製造が発覚した影響で混乱に拍車がかかっている。この事態に対し、厚生労働省は医療機関や薬局に経口抗菌薬の過剰な発注を控え、当面の必要量に見合う量のみを購入するよう求める事務連絡を出したが、沈静化にはほとんど至っていない。
最近開かれた各地の学会でも現場から経口抗菌薬不足への対応に苦労している率直な悩みが伝えられた。日本病院薬剤師会東北ブロック学術大会では、病院薬剤部から経口抗菌薬不足について、特に薬局に薬がないことを問題視する声が相次ぎ、「院外処方については薬局も在庫を確保できていない」「本当にセフェム系抗菌薬が手に入らない。問題は院外処方で薬局では薬がない」と切実な声が出た。
日本感染症学会と日本化学療法学会の合同学会では、薬局薬剤師から「医師に抗菌薬の処方変更を提案しても却下される」「医師から抗菌薬を止めるのは難しいと言われる」との訴えがあり、処方する医師へのアプローチに悩む苦悩が伝えられた。
国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンターによると、感冒と診断した時に抗菌薬を処方しない医師の割合は2022年度調査では82.4%に達したが、医師は処方しないつもりでも患者に説明し、納得を得られなければ処方せざるを得ないという現状もある。
感冒に抗菌薬が処方された場合、処方箋を受け取った薬局薬剤師から医師に疑義照会しにくい実態も見られる。宮城県大崎市内の薬局を対象に行われた調査では「全く疑義照会しない」との回答が半数以上に上った。自由回答では「感冒には抗生剤の信者が多いので、現場から正しい知識を周知できればと思うが、なかなか難しい」「医師も患者も感冒には抗菌薬が効果的だと思っていると感じる」などの意見があった。
感冒に抗菌薬は効かないと分かっていながら、患者は求め、医師は処方し、薬局薬剤師は疑義照会しない。結果的に感冒に抗菌薬が処方され続けることが繰り返されてきたと想像される。
しかし今は、そもそも抗菌薬を処方したくても薬がない緊急事態だ。全ての関係者に行動変容が求められている中、とりわけ薬局薬剤師は、重要な役割を果たせるポジションにある。医師と患者をつなぐハブとなり、患者には正しい知識を持てるよう積極的に関与し、医師には疑義照会を行いストッパー役になる。そのことが抗菌薬不足の解消に少しでも貢献するのではないか。
もっとも、国も未曾有の抗菌薬不足の危機に一歩先を行く対策を打ってほしい。既に必要な薬を薬局で入手できずに地域をさまよう患者が続出している。事態打開に向けた対応は待ったなしだ。