医薬品の有効性や安全性、経済性を踏まえて、その地域全体で使用が推奨される医薬品リスト「地域フォーミュラリ」の運用に取り組む地域が増えつつある。医師や薬剤師ら関係者が集まって地域別に作成し、スタチンなど領域ごとに複数の推奨薬を提示するもので、地域の医薬品使用実態も考慮する。
主に行政主導のモデル事業として各地で始まり、現在は自主的に取り組む地域が増えてきた。運用を開始した地域や検討中の地域は、全国で計30カ所以上あると見られる。
歯科領域に焦点を当てた地域フォーミュラリや、地域医療連携推進法人傘下の複数の病院や地域全体で運用するフォーミュラリもある。他にも様々な形で、各地での運用が始まっている。
日本では、後発品の使用を促進する手段の一つとして、病院内でフォーミュラリが始まった。地域全体での運用が注目を集める現在は、その目的に加えて、様々な意図や狙いでフォーミュラリを活用する多様な動きが認められるようになってきた。
厚生労働省は昨年7月7日に「フォーミュラリの運用について」と題する通知を発出した。同通知により、定義や目的等が明確に示されたことが地域へと拡大する追い風になった。
医師は、処方権が制限されるのではないかと懸念して、これまで馴染みのなかった地域フォーミュラリに警戒感を抱きがちだ。「医薬品の使用(処方)が制限されるものではない」などと明記された厚労省の通知は、正しい理解を促す一助になり得る。
通知を受け日本フォーミュラリ学会は、昨年12月に実施ガイドラインを発表した。地域フォーミュラリの具体的な作成や運用手順を説き、各地の事例を例示した。未実施の地域でも指針を参考に取り組みを進めやすくなった。
今後、実施地域を拡大する上で焦点になるのが診療報酬での評価だ。過去の改定では、関係者の期待は高かったものの、地域フォーミュラリの取り組みに対する診療報酬の評価を得ることはできなかった。次回の改定に向けて、関係者の理解をどこまで深められるかがカギになる。
診療報酬での評価獲得とも関連するが、地域フォーミュラリ運用の成果を示すことも重要だ。
ともすれば地域フォーミュラリは、作成することがゴールになりがちだが、真に達成すべきゴールはもっと先にある。地域フォーミュラリによって地域の薬物療法はどのように変化したのか、医療の質はどれだけ高まったのか、医療費の最適化につながったのかなどを、運用を開始した地域では具体的な数値で示していくべきだ。
地域フォーミュラリによって、患者はより良い医療を受けられるようになり、持続可能な医療体制の維持にもつながるのであれば、診療報酬を含めた社会的な評価も自ずと高まっていくだろう。