全国各地域で薬剤師不足に喘いでいた病院に、ようやく光明が差しつつある状況が生まれてきた。その牽引役は、6月の診療報酬改定で新設された「薬剤業務向上加算」の算定だ。既に昨年度から、石川県や宮城県で国の地域医療介護総合確保基金を財源に、薬剤師の地域偏在を解消する取り組みが始まっていたが、診療報酬上の後押しが加わった意義は大きい。
今年度からスタートした第8次医療計画では、各都道府県において薬剤師の地域・業態偏在を解消するための薬剤師確保計画を始動させている。しかし、全体的に動きは緩やかで、薬剤師不足の現場からの悲鳴に応えるには時間がかかりそうである。
こうした中で、薬剤業務向上加算による波及効果は大きいと感じる。日本病院薬剤師会によると、これまでの算定施設は7施設と限定的だが、薬剤師が足りない現場は1日も早い支援を求めている。これまで各地域で様々な対策が講じられてきたにも関わらず、なかなか効果が出なかった経緯を踏まえれば、薬剤業務向上加算は即効性のある政策という意味でインパクトを与えていると言えるのではないだろうか。
実際、大幅なマンパワー不足で厳しい業務環境にあった出向受け入れ施設からは「本当に助かっている」と安堵の声が聞かれる。薬剤業務向上加算は「地域医療にかかる業務の実践的な修得を含めた病院薬剤師の充実した研修体制を整備した医療機関において、病棟薬剤業務を実施することを評価する」ものと位置づけられ、出向そのものを評価するものではないが、基幹病院から出向した薬剤師は「何でも1人でやらなければいけない責任を感じた」と感想を話していた。
出向した薬剤師が地域医療を学び、薬剤師業務の原点を学び、それを所属施設での業務に生かす――。まさに、薬剤業務向上加算をきっかけにした良いサイクルが回り出している。
もちろん、診療報酬というインセンティブあっての効果と言えるかもしれないが、現実にマンパワー不足に喘いでいた施設で薬剤師を確保でき、様々な業務が回るようになったという事実は重い。
新たな事例として、高知県のように「県またぎ」の薬剤師出向を受け入れる取り組みも動き出した。薬剤業務向上加算の算定をめぐっては、都道府県と連動した形だけではなく、個別の医療機関同士の合意で進められている事例も相当数あると見られる。そのため、今後様々な形で広がっていく可能性は高い。
既にモデル事業として行われた薬剤師出向の成果が報告され始めている。薬剤業務向上加算の取り組みはエビデンスを出しやすく、成果が目に見えやすい。算定施設からのエビデンスを積み上げ、他の施設に広げていくことで、薬剤師不足の解消に向けた道筋を確実なものにしていってほしい。