岡山大学と甲南大学、オランダのマーストリヒト大学の共同研究グループは、線虫(C. elegans)の体内構造を保持したまま連続切片を取得し、脂質分布を三次元的に可視化する質量分析イメージング手法を開発した。11日に報告した。
線虫は、発生生物学、神経科学、老化研究、毒性評価など多様な研究分野で広く活用されており、特に脂質代謝のモデルとしても重要な生物となっている。しかし、従来の質量分析法では、脂質の種類を網羅的に分析できても、それらがどの器官や細胞領域に分布しているかという空間的情報を得ることが困難だった。
今回開発した手法では、ポリジメチルシロキサン製のマイクロ流体チップを用いて線虫を直線状に整列させた後、高粘性のゼラチン・カルボキシメチルセルロース混合ゲルに埋め込むことで、内部構造を損なうことなく10μm厚の連続切片を安定的に取得することに成功した。
得られた切片に対して、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析イメージング(MALDI-MSI)を実施すると、特定の脂質分子が咽頭や胚など特定の器官に局在していることが明らかとなり、脂質代謝の空間的可視化が可能となった。
さらに、Oil Red O染色法による中性脂質分布との交差検証を行うことで、MSIによって得られた分布情報の信頼性を裏付けられた。取得された連続切片画像は三次元的に再構成可能で、脂質分布と器官構造との対応を視覚的に示すことができた。
今回開発された技術は、モデル生物線虫を用いた高空間分解能の脂質代謝解析を可能にし、個体ごとの変動や遺伝子変異、薬剤応答、加齢などによる脂質の動態変化を詳細に評価するための新たなツールとなる。
特に、脂質代謝異常は肥満や糖尿病、神経変性疾患など様々なヒト疾患と関連があり、そのメカニズムの解明は医学生物学・創薬研究にとって重要な課題で、これらの新たな研究ツールとして期待される。
また、質量分析イメージングはこれまで、主にマウスなどの動物組織レベルで用いられてきが、今回の研究によって微小動物の個体レベルでの三次元解析にも応用できることが示された。
これは、今後、微小生物やオルガノイド、培養細胞集合体などの次世代モデル系にも応用可能で、ナノ医療や環境毒性評価など、様々な分野への波及効果が期待される。
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