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第3世代の癌「ウイルス療法」が進展‐抗腫瘍効果を増強

2006年10月05日 (木)

 単純ヘルペスウイルス(HSV-1)を用いた第3世代の「ウイルス療法」の有用性が、第65回日本癌学会で報告された。HSV-1はウイルスゲノムが大きいことから、複数の外来遺伝子の挿入も可能で、報告した藤堂具紀氏(東京大学脳神経外科)は「遺伝子操作でゲノムをデザインできる改良型ヘルペスウイルスは、癌の多様性に対応できる真のアカデミア発の創薬につながるのではないか」と語った。藤堂氏らは現在、独自開発した第3世代のヘルペスウイルスを用いた第I/II相臨床試験を計画している。

 癌の「ウイルス療法」は、増殖型ウイルスを癌細胞に感染させ、ウイルス複製に伴うウイルスそのものの直接的な殺細胞効果によって癌の治癒を図る方法。増殖型ウイルスを用いることから、癌治療用のHSV-1では、病原性に関連した遺伝子やウイルスのDNA合成に必要な遺伝子を、遺伝子工学的に不活化・欠失させて、腫瘍細胞でのみ選択的に複製できるように多くの工夫が行われてきた。これまでに、ウイルス遺伝子を一つだけ操作したいわゆる第1世代から始まり第3世代まで、主なものだけでも30近くが知られている。

 そのうち、第2世代の代表的な癌治療用HSV-1がG207。ウイルスの病原性に関連したγ34.5遺伝子と、ウイルス増殖に関与するICP6遺伝子(リボヌクレオチド還元酵素の大サブユニット)に二重変異を入れ、ヒトの脳内にも投与できるように安全性を重視して開発された。

 ただ、米国で行われたG207の臨床試験では、安全性が非常に重視されたこともあって、効果の面では改善の余地があるとの成績が得られている。そこで、藤堂氏らは、遺伝子組み換え技術を使い、第2世代G207の安全性を確保したまま治療域の拡大を狙った第三世代の遺伝子組み換え癌治療用HSV-1の「G27Δ」を開発した。

 G27ΔはG207をベースとして、宿主細胞のMHCクラスIの発現抑制に関与しているα47遺伝子を除去した三重の変異を持つ第三世代のHSV-1。G27Δは、感染した癌細胞でのMHCクラスI発現が維持されるため、抗腫瘍免疫刺激の増強すると同時に、α47 遺伝子の欠失と同時にウイルスの細胞内侵入などに関係しているUS11 遺伝子の発現時期が早まる結果、腫瘍細胞特異的なウイルス複製能も改善するのが特徴だ。

 実際に、第三世代のG27Δを悪性グリオーマ細胞に投与した実験では、第二世代に比べて100100倍のウイルス複製能力が認められ、ヒトの膠芽腫細胞の増殖を強力に抑えることが分かった。またG27Δをマウスの脳内に投与しても、極めて安全性の高いことが確認された。

 現在、藤堂氏は、文部科学省のトランスレーショナルリサーチ事業の一環として、G27Δの臨床第I/II相試験を計画中で、ウイルス製剤としての開発を進めている。第三世代のヘルペスウイルスを用いた臨床研究としては世界初の取り組みだ。

 具体的には、最も悪性度が高い脳腫瘍である膠芽腫の進行・再発例21例を対象に、用量増加試験として行われることになっている。エンドポイントは、安全性の確認と抗腫瘍効果の評価に置かれている。今後、膠芽腫に適合するウイルスの選定と確認、ゲノム構造の確認、安全性試験、ウイルス生産と精製法の確立、ウイルス製剤の作成と品質テストというステップで開発が進められる予定だ。現在、東京大学医科学研究所の治療ベクター開発室で、GMP準拠のウイルス生産を行っている段階だという。

 藤堂氏は、「既に簡便な癌治療用ヘルペスウイルス作成系が確立されていることから、この第三世代ウイルスは創薬としてのポテンシャルが高い」と指摘した。ヘルペスウイルスのゲノムに様々な治療遺伝子を組み込んだ「武装」遺伝子組み換えHSV-1の量産も可能で、藤堂氏らは既に、IL-12、IL-18といった免疫刺激遺伝子発現型ウイルスも作製している。皮下腫瘍モデルを用いた実験では、強い抗腫瘍効果が確認されている。

 癌のウイルス療法では、ウイルス複製による直接的な殺細胞効果のほか、特異的抗腫瘍免疫が惹起されることも効果につながっている。実際、同時に発生した二つの皮下腫瘍を用いて、一方だけにG207を投与した結果、投与された側の腫瘍は増殖が抑制されただけでなく、投与していない側の腫瘍も縮小することが確認されている。その原因を調べたところ、腫瘍特異的な抗腫瘍免疫が強く引き起こされていることが認められた。具体的には、ウイルスを投与した癌細胞では、腫瘍特異的なCTL活性の増加がみられている。G207については、各種の安全性試験も行われ、マウス、サルを使い様々な投与経路、投与量、投与方法などが試され、詳細な情報が得られている。

 それらの成績を受け、1998年にG207の第I相臨床試験が米国で行われた。再発グリオーマ患者21例を対象に定位的腫瘍内投与が行われたが、ウイルスに起因する有害事象はみられず、腫瘍内投与の安全性が確認されている。一方、ウイルス投与による効果をみると、症状改善が6例、MRI上での腫瘍縮小が8例、さらに5年以上の生存例が2例と良好な結果が得られている。

 藤堂氏はそれらの研究成績も踏まえ、「遺伝子操作でゲノムをデザインできる改良型ヘルペスウイルスは、癌の多様性に対応できる真のアカデミア発の創薬につながるのではないか」と語った。



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