昨年11月17日、国土交通省が姉歯秀次元1級建築士による耐震強度偽装問題を公表し、震度5程度の地震で崩壊するマンションの存在が日本中を震撼させた。以後、全国で88件の耐震強度偽装が判明し、多くのマンション住民が転居を迫られ、ホテルは休業に追い込まれた。姉歯元1級建築士が耐震性を示す「構造計算書」をごまかし、民間の建築確認会社「イーホームズ」がフリーパスでこれを通すという構図が浮き彫りになった。
いわゆる「設計会社」と「審査会社」の馴れ合いが露呈したわけだが、問題は1998年の建築基準法改正による「建築確認」の民間移管に端を発する。建築確認を代行する民間検査機関の設立は、95年の阪神大震災時に相次いで倒壊した建物の早期復旧が契機となっている。それまで自治体が行ってきた建築確認・完了検査を、国などの指定を受けた民間機関でも実施できるように、建築基準法が改正された。
この規制緩和の目的が、「検査期間のスピード化」にあることは言うまでもない。自治体による審査は早くても1カ月以上かかるのに対し、民間の検査機関では102週間で事足りるという。法改正後の99年に21社しかなかった民間検査機関は、04年には122社に増え、扱う件数も1万5500件から41万件以上に急増した。その背景には、「検査期間の短縮は、金融機関から借り受けた建設費の利息節減にもなる」という販売業者の指摘も無視できない。 だが、今回の耐震強度偽装問題で、民間検査機関がきちんと機能していないことが明白になった。「検査を厳しくすれば、依頼が来なくなる」――民間検査機関側から漏れ聞こえるこの声こそが、問題の根源を端的に表しているように思えてならない。建築確認の民間開放が、事件の大きな一因になっているからだ。過度な規制緩和によって、安全性という人命に関わる重要問題を、利益と利便性だけを理由に民間へ委ねることの是非は慎重に議論すべき課題であろう。
薬業界では、厚生科学審議会医薬品販売制度改正検討部会の最終報告案が了承され、一般用医薬品の販売について新しい方向性が示された。医薬品販売の規制緩和に端を発し、1年半以上にわたって審議が重ねられた結果、一般薬を配合成分のリスクに基づいて三つのグループに区分し、販売や陳列方法も定められるようになる。
このうち最もリスクの高いAグループは、薬剤師がオーバーザカウンターで販売するように義務付けられる。Bグループ(稀に日常生活に支障を来す健康被害が生じる恐れがある成分を含む)とCグループ(それ以外の成分)に分類された薬剤の販売は、薬剤師だけでなく一定の資格確認を受けた者にも認められる。また医薬品の店舗販売形態は、「薬局」と「店舗販売業」に再編される予定だ。2月いっぱいで詳細が決定し、3月に薬事法改正案が国会提出される運びとなろう。
一般薬の販売に関する規制緩和は、政府の総合規制改革会議などを舞台に議論が繰り返され、99年に15製品群、04年にも15製品群の合わせて721品目が医薬品から医薬部外品に移行し、コンビニなどで販売されるようになった。今回の検討部会の結論は、医薬品を誰でもどこでも自由に販売したい規制緩和推進派の思惑に、一定の歯止めをかけるのは確実だ。
だが一方では、医薬部外品へのさらなる移行が、またぞろ再燃する可能性も否定できない。その場合には、人命をも奪いかねない結末を迎えた今回の耐震強度偽装問題を想起し、過度な規制緩和に警鐘を鳴らす必要があるだろう。