海外大手製薬企業の2009年上半期決算が出揃った。各社とも主力品の堅調な伸びに支えられたものの、為替変動が大きく影響し、現地通貨ベースでは増収を確保しながら、米ドルベースでは減収に落ち込むケースが相次いだ。特に欧州勢が軒並み増収を確保する一方、米国勢はイーライリリーを除く各社が減収となった。実質的には増収を確保しながら、ドル高の影響が直撃した格好だ。
米ファイザー
主力大型製品が二桁の落ち込み
米ファイザーは、主要製品の相次ぐ米国特許切れに加え、為替変動が影響。売上高は、前年同期比9%減の218億5100万ドルと減収、純利益は10%減の49億9000万ドルと二桁減益となった。
医療用医薬品の売上高は、8%減の201億6500万ドル。主力の高脂血症治療薬「リピトール」が12%減の54億0600万ドル、高血圧治療薬「ノルバスク」が12%減の9億9900万ドルと、大型製品が軒並み二桁の落ち込みを見せ、10%増の神経障害性疼痛治療薬「リリカ」、6%増の抗癌剤「スーテント」と、好調な新製品群でカバーできなかった。禁煙補助薬「チャンティックス/チャンピックス」も、精神神経系の有害事象に関するラベル変更が直撃。前年同期の33%増から一転し、24%の大幅減となった。
仏サノフィ・アベンティス
営業利益41%増‐トップ製品群好調
仏サノフィ・アベンティスは、主力品の静脈血栓症治療薬「レベノックス」、持効性インスリンアナログ製剤「ランタス」などが好調で、ワクチン事業も堅調に推移した結果、売上高は6・7%増の145億4500万ユーロとなった。
医薬品事業の売上高は、トップ製品の静脈血栓症治療薬「レベノックス」が6・9%増、抗血小板薬「プラビックス」が4・2%増と伸長。「ランタス」も26・6%増と高い成長を維持し、3・0%増の132億0600万ユーロとなった。
ワクチン事業は、季節変動の激しいインフルエンザワクチンが41・0%減と落ち込んだが、Hibワクチンなどが好調で、3・7%増の13億3900万ユーロと増収を確保した。
その結果、利益面では、営業利益が40・9%増の59億4400万ユーロ、純利益が30・6%増の44億4600万ユーロと大幅な二桁増益となった。
スイス・ロシュ
「タミフル」と抗癌剤が伸長
スイス・ロシュは、新型インフルエンザの流行が追い風となり、抗インフルエンザウイルス治療薬「タミフル」が大幅に増加。主力の血管新生阻害剤「アバスチン」、悪性リンパ腫治療薬「リツキサン」、転移性乳癌治療薬「ハーセプチン」など抗癌剤も大きく伸ばし、9%増の240億0600万スイスフラン(CHF)となったが、純利益は、米ジェネンテックの完全子会社化の費用を計上したため、29%減の40億5100万CHFと大幅な減益となった。
医療用医薬品の売上高は、11%増の191億0400万CHFと二桁成長を達成。ジェネンテックが14%増、中外製薬が50%増と牽引し、グループ全体の業績を押し上げた。
主力の癌領域は、「アバスチン」が29%増、「ハーセプチン」が10%増、「タルセバ」が10%増など、軒並み二桁の伸びを示し、トップ製品の「リツキサン」も8%増と好調を維持した。
英グラクソ・スミスクライン
ワクチン事業とOTC系が牽引
英グラクソ・スミスクラインは、ワクチン事業とコンシューマーヘルスケア事業が好調に推移し、売上高は17%増の135億1600万ポンドと大幅に伸長した。
医療用医薬品部門は、12%増の112億0500万ポンド。主力の気管支喘息・COPD治療薬「セレタイド/アドエア」は、新興市場とアジアで売上を拡大し、24億5900万ポンド。HIV領域の抗ウイルス薬「バルトレックス」が7億2300万ポンドとなった。
また、ワクチン事業は、新製品の子宮頸癌予防ワクチン「サーバリックス」が1億2100万ポンド、小児用ロタウイルスワクチン「ロタリックス」が1億2800万ポンドと好調で、14%増の13億8100万ポンドと大幅に伸長し、医療用医薬品部門の売上を支えた。
コンシューマーヘルスケア事業は、抗肥満薬のスイッチOTC「アライ」などが牽引し、23億1100万ポンドとなった。
スイス・ノバルティス
癌領域二桁伸長も為替の影響で減収
スイス・ノバルティスファーマは、最大フランチャイズの癌領域と新製品群が好調で、現地通貨ベースの売上高は、8%増の202億5500万ドルとなったものの、米ドルベースでは為替の影響を大きく受け、2%減となった。
医薬品事業の売上高は3%増(米ドルベース)の135億4800万ドル。特にオンコロジー事業は、慢性骨髄性白血病治療薬「グリベック」、アロマターゼ阻害剤「フェマーラ」、鉄キレート剤「エクジェイド」が二桁成長で貢献し、現地通貨ベースで15%増の42億ドルとなった。新製品の加齢黄斑変性症治療剤「ルセンティス」、直接レニン阻害剤「ラジレス」も業績を支えた。
後発品事業のサンドは、中欧・東欧、アジア太平洋地域が業績を牽引。バイオシミラー3製品も売上に貢献し、現地通貨ベースで4%増の35億ドルとなった。
英アストラゼネカ
抗高脂血症薬と降圧薬が二桁増
英アストラゼネカは、主力品が大幅に伸長し、売上高は8%増の156億5900万ドルとなった。
製品別では、抗潰瘍薬「ネキシム」は5%減となったものの、高脂血症治療薬「クレストール」は24%増、統合失調症治療薬「セロクエル」も10%増と二桁成長を達成した。また、高血圧治療薬「セロケン/トプロールXL」も後発品の市場撤退が影響し、78%増と反転。増収に貢献した。
米ジョンソン・エンド・ジョンソン
為替変動に加えて後発品影響し減収
米ジョンソン・エンド・ジョンソンは、為替変動の影響を受け、売上高は7・3%減の302億6500万ドルとなった。
医療用医薬品の売上高は、11・7%減の112億7800万ドル。主力品の抗リウマチ薬「レミケード」が13・1%増、新製品の多発性骨髄腫治療薬「ベルケード」が8・2%増と売上を拡大したものの、後発品の影響を受けた統合失調症治療薬「リスパダール」66・2%減、片頭痛治療薬「トパマックス」も40・7%減と大きく減らしたことが響いた。
医療機器・診断薬事業は、営業ベースの増収を為替変動の影響が吸収して3・0%減、、コンシューマー事業もOTCが振るわず6・6%減となった。
米メルク
新製品が貢献もワクチンは不調
米メルクは、主力のアレルギー治療薬「シングレア」やDPP‐4阻害薬「ジャヌビア」に加え、新製品のHIVインテグラーゼ阻害剤「アイセントレス」が大きく伸長したが、子宮頸癌予防ワクチン「ガーダシル」、小児ロタウイルス胃腸炎予防ワクチン「ロタテック」が二桁減とワクチンが不調で、売上高は5%減の112億8500万ドルとなった。
純利益は、世界規模の事業再構築計画の関連費用、シェリング・プラウとの統合関連費用を計上した影響で、41%減の29億8100万ドルとなった。
米ワイス
主力のワクチンとバイオは好調維持
米ワイスは、主力品が好調に推移して2%の増収を確保したものの、為替変動の影響を受け、売上高は5%減の111億ドルとなった。
主力の抗うつ薬「エフェクサー」は後発品との競合が激化し22%減と大幅に落ち込んだが、肺炎球菌感染予防ワクチン「プレベナー」が10%増、抗リウマチ薬「エンブレル」が米国・カナダ以外で5%増と堅調に推移し、ワクチンとバイオ医薬品は好調を維持したが、為替変動の影響で相殺し、売上減をカバーできなかった。
米イーライリリー
「シンバルタ」が 二桁成長で増収
米イーライリリーは、主力品の大うつ病治療薬「シンバルタ」の二桁成長などに支えられ、売上高は4%増の103億3900万ドルとなった。
製品別では、トップ製品の抗精神病薬「ジプレキサ」は1%減となったが、「シンバルタ」が15%増、超速効型インスリン製剤「ヒューマログ」が10%増、悪性胸膜中皮腫治療薬「アリムタ」も38%増と二桁の伸びを示した。
営業利益は、増収が寄与し、47%増と大幅な増益となった。