政府の経済成長戦略で、医薬産業は旗手として位置づけられた。だが、手放しで喜べる話ではない。むしろ産業界、各企業が、新薬創出に向けて重い責任を背負ったと考えるべきだろう。新薬創出を支援する行政、医療機関、研究機関も同様の認識で臨む必要がある。
安倍政権では、まだ内政課題に十分に手が着けられていないが、経済成長戦略を推進するため、成長分野を重点的に支援する方向を打ち出したのはセオリーといえる。生命科学分野には研究費が重点的に配分され、ベンチャー企業の育成も進められてきた。今度は研究の成果を産業に橋渡しする時だろう。
その中で、成長の源泉となるイノベーション(技術革新)を促すため、政府が策定を決めた長期戦略指針「イノベーション25」では、「医薬」が重点分野の一つとなった。医薬産業は厚生労働省だけでなく、国全体による長期的な後押しが期待できるという、従来にない立場に置かれたことを意味する。
イノベーション25以外にも、あらゆる角度から抱える課題を政府側と話し合うため、産業側が求めてきた「官民対話の場」設置も、政府は必要性を認めている。厚労省だけでなく、省庁横断的に話し合えるようにすることに加え、実効性を高める仕組みが必要となろう。また、厚労省が検討会を設けて着手した新薬承認審査のスピードアップ策も、早い実現を求めたい。
税制では、政府が経済成長に資するよう見直す方向にある。財政バランスとの兼ね合いは重要課題だが、内外の投資を促す法人税を含む法人減税が検討されることになった。海外事業を展開する企業に不満が強い移転価格税制も、経済産業省が研究会を設置して運用改善を促すことになった。
このように、支援環境が整備される方向へと進み始めた今、産業側に求められるのは、万全とはいえないまでも改善が見込まれる事業環境を生かし、国民に成果を還元することだ。要するに新薬、新医療機器、新医療技術の創出である。
支援策には相応の公費が投入され、企業は減税の恩恵も受ける。当然、それに相応した成果を国民は期待するだろうし、そうした施策に産業側が応えるのは義務だというくらいの気持ち、覚悟を持ってほしい。
医薬品に限れば、研究開発投資を増加させてきたものの、最近の新薬承認数は年間20成分以下と減少傾向。成長産業といわれて支援を受けても、この傾向が続くようでは、国民は産業に対する目を厳しくするだけでなく、最新医療の恩恵に浴せない不幸に見舞われる。
また、イノベーションを成長戦略の軸とされた点について、日本製薬工業協会の青木初夫会長が本紙に語った「イノベーションをサバイバルの一つの条件にするよと言われたのだと思っている」との認識は、その通りだと思う。有用性の高い新薬を生み出せるか否かが、新薬メーカーの生き残りの条件だとし、それを促す方向で薬価制度などの見直しが進められる可能性もあると見ることもできる。
経済成長戦略下で各企業は、新薬創出の確率を高める研究開発体制になっているかを改めて点検し、必要なら組織改革の断行も急務だと考える。