「医薬品のグローバル開発及びアジア諸経済の協力」をテーマに、先月東京で「APEC医薬品等レギュラトリーサイエンスネットワークシンポジウム」が開かれた。会議にはアジア主要国の規制当局が一堂に会し、アジアにおける医薬品開発の現状や、規制調和のあり方などが議論された。従来から一つの問題について、まとまった活動があまり行われてこなかった地域だけに、意義深いシンポジウムとなった。
近年、アジア各国でグローバル治験が行われる事例が増えている。一方で日本の状況はというと、新薬等の開発、申請、承認等で、欧米に遅れをとっている。今後もこうした傾向が続くとなれば、いわゆる「ドラッグラグ」「デバイスラグ」が拡大し、新薬等に対する国民のアクセスの悪さがさらに深刻化する。こうした点を意識してか、会議で日本側からは、まさにアジア各国の連携強化を訴える意見が目についたように思う。
例えば、医薬品医療機器総合機構の森和彦審議役は、「シンガポール、韓国、台湾などのアジア諸国は、近年治験体制が改善され、国際共同治験が数多く行われるようになっている。今後もアジアの治験は増加すると予測されるが、それを円滑に行うには、アジア諸国の経験と情報を交換することが、より重要になってくる」と発言した。
また、日本製薬工業協会医薬品評価委員会の中島和彦委員長もアジアでの臨床試験について、品質、スピード、コストに優れ、民族的同等性も認められていることから、「データの相互受け入れを図るべきだ。臨床試験の重複が避けられ、速やかに患者へ新薬を提供できる」とメリットを強調。一方で、日本がアジアの臨床試験に参画するためには、日本固有の臨床試験慣行を解決すると同時に、アジア各国と対話を進める必要があると指摘した。
さらに、会議の最終まとめとして発言した総合機構の豊島聰審査センター長も、アジアの規制当局間で連携を強化する必要性を訴えた。
かつて東南アジア諸国の中には、国力強化のために、日本などの成功経験に学びたいという「look east」構想を打ち出したことがある。しかし、医薬品の開発、とりわけ治験に関する課題では、今や日本がアジア諸国から学ぶべき部分が増えてきたのではないだろうか。
「look west」――日本もアジア諸国に目を向け、治験に関して連携を深めていく積極的姿勢が求められよう。今回のAPECシンポジウムは、そうした点を再確認する良い機会になったことは確かだ。