「第9回北里・ハーバードシンポジウム」が12日、都内で開かれ、臨床研究の基盤整備をめぐる議論が行われた。申請目的の治験とは違い、臨床研究の実施には資金調達が大きな課題となっているが、慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター教授で日本製薬医学会副理事長の佐藤裕史氏は、「製薬企業からの奨学寄付金では、利益相反に問題がある」として、委託研究で透明性を確保した臨床研究を進めるべきとの考えを提案した。
癌領域の医師主導臨床研究を実施するNPO「西日本がん研究機構」(WJOG)の中村慎一郎氏は、「研究資金は、ほとんどを製薬企業の奨学寄付金、委託研究費で賄っている」と運営状況を披露した上で、「医療機関は赤字で臨床研究のインフラがなく、医師がボランティアで実施するしかない。質の高い臨床研究を行うためには、こうした状況をどう解決するかが問題だ」と訴えた。
佐藤氏は、難病、希少疾患、癌領域の医師主導臨床研究が急増しているとの認識を示す一方、「医師は診療に多忙で、CRCも臨床研究に手が回らず、質は玉石混淆が現状」と指摘した。その上で、臨床研究の資金源に言及。「奨学寄付金は利益相反に問題がある」として、「今後は委託研究による透明性を持ったパートナーシップで進め、よりよい製薬企業とファンドのあり方に改善していくべき」と、委託研究の必要性を強調した。
日本製薬医学会理事長の今村恭子氏は、「臨床研究の支援を奨学寄付金で行っているのは日本だけ。製薬企業からの寄付では研究内容が明らかにされず、販促が目的と見られる可能性がある」と、利益相反の懸念を表明。委託研究費による臨床研究支援の必要性を訴えた。
パネル討論では、世界標準の臨床研究を実施していくための方策が議論され、フロアから「寄付が一般的な日本で、委託研究という欧米のシステムが受け入れられるのか」と疑問の声が上がった。これに対し、中村氏は、「既に臨床研究を計画し、プロトコールを作る段階から、製薬企業の方々に参加してもらっている」としたが、「研究者が作ったプロトコールを製薬企業に出し、評価されるということには、アレルギーがあるのではないか」と医師の心情を代弁した。
一方、佐藤氏は「世界標準の臨床研究を行うためには、むしろシステム、インフラがなくても、マインドセットがある人がいれば、相当にカバーできる」との考えを示し、「臨床研究を分かっている人が発言し、交流していくことで、環境はずいぶんと変わるのではないか」と人材育成の必要性を強調。「適切なスタッフを任用していくためにも、もっと産官学の人事交流が行われていくべきだ」と述べた。