16日に召集された特別国会で、民主党の鳩山由紀夫総理大臣が誕生した。組閣も無事完了し、注目されていた厚生労働大臣には長妻昭氏が就任した。いよいよ新政権スタートとなるが、果たして薬業界にはどのような影響が予測されるだろうか。
社会保障政策について民主党は、マニフェストの中で、「国民総医療費のGDPに占める割合を、OECD加盟国の平均並みにすべきである」と掲げている。増加する総医療費の一部は、間違いなく救急、産科、小児、外科等の医療提供体制の再建に回されるだろう。
同様に、薬業界も総医療費増加の恩恵を被ることができるかどうかは、甚だ疑問である。社会保障費は、毎年1兆円程度の自然増が見込まれている。自公政権の社会保障費2200億円圧縮策は廃止されるが、財源は無限ではない。引き続き効率的な医療政策を余儀なくされるのは間違いないところだ。
従って、これまでのジェネリック薬(GE薬)の普及促進策は、概ね正しい方向にあると考えてよいだろう。とはいえ、GE薬に対する医師・薬剤師の信頼度はまだ十分とは言い難く、「2012年に数量ベース30%」を目指すスピードは、若干鈍る可能性が予想される。
薬業界として最も気になるのは、民主党が「中央社会保険医療協議会の役割を見直す」としていることだ。官民対話の中で、業界が提案した薬価制度改革案は中医協で議論されているが、民主党の「政府主導方針」により、これまでの議論の棚上げを懸念する声が出始めている。
日本製薬団体連合会の竹中登一会長や日本製薬工業協会の庄田隆会長は、政権交代が決定した衆議院総選挙直後に、「民主党のしかるべき関係者に説明する場を設けたい」との声明を発表している。今後、政権与党と業界がじっくりと話し合い、お互いに信頼関係を構築することが重要となるだろう。
他方、海外に目をやると、米国のオバマ政権は、国民皆保険制度の導入に尽力している。この制度が実現すれば、4800万人の無保険者が保険枠の中に入ることになり、運営には1兆ドルを要すると言われている。従って、国民皆保険制度を維持するため、政府主導による薬剤の価格引き下げや、保険給付水準引き下げの実施等が容易に予測できる状況下にある。
このように、国内外の医療を取り巻く環境が非常に厳しい中、製薬企業が生き残る手立てはあるのだろうか。生き残りには、各社が長年にわたって培ってきたノウハウを活用した、新製品の継続的な創出が必要不可欠となるのは言うまでもない。アンメットニーズの高い医薬品を世に送り出し、患者に貢献することこそ、製薬企業の第一の使命である。
自社の研究開発だけでおぼつかない場合は、他社とのアライアンスの強化や、バイオベンチャー・大学の研究機関との積極的な提携により、新たなシーズを見出し、常に創薬パイプラインを充実しておく必要があるだろう。
新薬パイプラインに厚みを加えるには、化合物の毒性を早期に予想できるマイクロドーズ試験の活用による適正な研究開発費の配分や、国内治験環境の充実なども重要な課題になると思われる。医療を取り巻く環境がどのように変化しても、新薬創製に向けての弛まぬ努力が、企業存続のキーポイントとなるのは言うまでもない。