沖縄科学技術大学院大学(OIST)が2012年、沖縄県恩納村に開学する。「世界最高水準」「柔軟性」「国際性」「世界的連携」「産学連携」を基本コンセプトに掲げ、生命システムを中心に生物学、物理、化学、コンピューティング、ナノテクノロジーなどの領域で研究を進めていく。開学を控え、大学の設立準備を手がける「沖縄科学技術研究基盤整備機構」では、05年から研究基盤の構築や大学院大学の知名度向上を目的に、先行的研究事業を実施している。
OISTの設立構想は、01年6月に当時の尾身幸次内閣府特命担当大臣によって提唱され、アジアに近く、自然環境に恵まれた沖縄に、世界最高水準の大学院大学が創設されることとなった。ノーベル生理学・医学賞を受賞したシドニー・ブレナー氏が理事長を務める。
基本的な研究方針は、「沖縄科学技術研究基盤整備機構」の運営委員会で決定されることになっており、委員10人のうち、マサチューセッツ工科大学教授の利根川進氏など、ノーベル賞受賞者が5人も含まれている。また、教員と学生の半数以上を外国人とし、公用語も英語と国際性も豊かで、世界トップクラスの大学や研究機関と連携し、研究協力と共同研究を行っている。
既にOISTでは、研究基盤の構築を目的とした先行的研究事業を開始しており、22件の研究ユニットで約220人の研究員が活動している。研究期間は5年間で、学外に設置した評価委員会が、各ユニットの研究成果に対して評価を行い、更新の可否を判断する。
既に、銅谷賢治氏の「神経計算ユニット」、柳田充弘氏の「G0細胞ユニット」、外村彰氏の「電子線ホログラフィーユニット」の3件の評価が終わっており、10年度から5年間の研究期間延長が認められている。
その中で、柳田氏のユニットでは、「飢餓状態におけるG0期への停止維持と栄養増殖開始の細胞戦略」をテーマに研究を行っている。栄養環境の変化に応じて、細胞が自身を分裂停止状態のG0期に維持したり、細胞分裂を再始動したりすることを決定する「分子スイッチ」の問題の解明を目指している。これまで、細胞が分裂する仕組みの研究は多くあったが、細胞増殖停止期の制御機構に関する研究は新しい試みだ。
これまでの分裂酵母を用いた研究で、細胞が増えるときと増えないときでは、全遺伝子の半分以上の発現状態が異なっていたほか、蛋白質や低分子代謝物の組成も大きく変化していたことが分かった。さらに、分裂を停止させる遺伝子に加え、G0停止状態の細胞を健康に維持させる作用を持つ蛋白質の同定にも成功。今後は、脊椎動物細胞を対象とした比較研究も視野に入れており、将来的には、癌研究への応用も期待されている。
OISTでは、開学前に50の研究ユニットの開設を目指している。研究内容は、基礎研究が中心のため、現段階では沖縄経済に直接影響を与えることはなさそうだが、将来的には、県内への企業進出の呼び水となることが期待されている。