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漢方薬問題とは何だったのか‐「保険外し」反対運動を振り返る

2010年1月5日 (火)

“ネット市民”の呼びかけが牽引

外口保険局長に陳情書を手渡す日本東洋医学会の寺澤会長

外口保険局長に陳情書を手渡す日本東洋医学会の寺澤会長

 昨年11月11日、内閣府の行政刷新会議による「事業仕分け」が行われ、見直し項目の中に医療用漢方製剤を含めたOTC類似薬の“保険外し”が盛り込まれ、日本東洋医学会など関連団体、漢方薬メーカーの猛反発が国民的な署名運動に発展する事態となった。漢方薬の保険外しは、かねてから財務省の標的にされてきた経緯があるが、漢方医療の推進を掲げる民主党が、事業仕分けという場で再び保険外しを持ち出したことに、大きな衝撃が広がった。ただ、最終的に集まった92万通以上の署名を背景に、民主党など与党3党が12月17日、政府へ提出した予算要望で、漢方薬の保険適用継続を求め、事態は収束に向かいつつある。特に今回の動きで注目されるのは、9万5000通以上が集まった電子署名の盛り上がりだろう。インターネットの巨大掲示板、会員制SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、ミニブログなど、電子媒体を通じた「ネット市民」による情報発信が、署名の起爆剤となった。今回の漢方薬保険外し問題とは何だったのか。新たな胎動となった電子署名の動向を中心に検証した。

起爆剤となった電子署名‐漢方薬最大手ツムラが反発

 11月11日の事業仕分け。政権交代を象徴する出来事の中で、医療用漢方薬等の市販品類似薬を、保険適用外とする方向性で結論が下された。まだ、保険外しが最終決定したわけではなかったが、仕分け作業で漢方薬の保険適用が「ムダ」の対象として取り上げられた衝撃は大きかった。早速、この事態に国内漢方薬最大手のツムラが反応した。翌12日に開いた中間決算説明会の席で、芳井順一社長が「漢方医学の現状を知らない人たちの議論」と強く反発。民主党のマニフェストで漢方医学を取り上げている矛盾まで指摘しながら、「漢方医療小委員会が設置されているのにもかかわらず、なぜ保険適用外の話になるのか分からない。明らかにマニフェストと違う方針」と批判のトーンを上げた。

 ツムラは、家庭用品事業を売却し、医療用漢方製剤に特化した事業展開へとシフトしている最中。「保険削除されたらツムラは間違いなく倒産する」(芳井社長)との危機感が沸き起こるのも当然といえ、中間決算説明会では、ツムラが販売する医療用漢方薬の一日薬価についてのデータも用意し、いかに低薬価で医療に貢献しているか、自ら進んで説明する念の入れようだった。

 芳井社長は、保険適用外の行方を楽観視していると、努めて冷静な姿勢を示したが、一方で「もしそうならなかった場合は、民主党や行政刷新会議メンバー、厚生労働省にアプローチをかけ、なぜ漢方薬が保険適用になっているのか、しっかり説明したい」と、牽制するのも忘れなかった。事業仕分けの翌日に、国内最大手漢方薬メーカーの社長が素早く反応したことの意味は、後の署名運動に大きく影響することになる。

転換点は患者ブログ

 11月20日には、日本東洋医学会、日本臨床漢方医会、健康医療開発機構、医療志民の会の4団体が、医療用漢方製剤の保険外しの方向性に反対する見解を表明。同日から連名で「漢方を健康保険で使えるように署名のお願い」とするホームページを開設し、書式署名と電子署名の活動を開始した。第1弾の締め切りを11月30日とし、12月1日に長妻昭厚生労働相宛てに署名簿と陳情書を提出する予定を公表。ホームページの開設と前後して、インターネット上では、漢方薬の保険外し問題が個人ブログやミニブログの「twitter(ツイッター)」、会員制SNS「mixi(ミクシィ)」、巨大掲示板「2ちゃんねる」などに広がり、ネット利用者による署名呼びかけが活発化した。

 転換点となったのは11月27日早朝だ。漢方薬の保険外しに危機感を持ったある患者のブログが引き金となり、27日午前1~3時に署名サイトへの訪問者が急増。これが一気に「twitter」で話題となり、訪問者が集中した結果、署名サイトのサーバーダウンが引き起こされる事態となった。

 さらに27日午前。インターネット巨大掲示板「2ちゃんねる」のまとめサイト「ハムスター速報」のトップページに、「事業仕分けで漢方薬が危険」のタイトルで投稿スレッドが立ち上がり、インターネット上で爆発的に反対運動が拡大した。この余波を受け、既に13日のウェブサイト上に、『【ツムラ・芳井社長】漢方薬の“保険外し”に反発―「事業仕分け」の結論を一蹴』のタイトルで、ツムラ社長の発言を報じていた薬事日報ホームページにも、27日夕方からアクセスが殺到。予想を超えるネット利用者の逆流が直撃した格好となった。

 この特異的な現象は、署名の締め切りが30日と迫っていたこともあり、過去に例のない爆発的な署名運動の加速につながったものと見られる。

第1弾で27万通以上

 そして、12月1日。日本東洋医学会など4団体が長妻厚労相宛てに、保険適用の継続を求める27万3636通の署名と陳情書を、外口崇保険局長に手渡すに至った。第1弾で集まった署名は、郵送とFAXで19万1000通、ウェブサイト上の電子署名で8万2636通に及び、陳情書では、保険適用外になった場合、医療現場で使用が困難になるとして、漢方薬の保険適用継続を改めて強く求めた。

 この時点で、最終的な署名締め切りを、当初予定の7日から12日まで延長することを決定。1日に提出された27万通以上の署名をきっかけに、政治も動き出す。まず、長妻厚労相が1日の閣議後会見で、「漢方薬は医師が処方をしているものでもあり、直ちに外すことには疑問がある」と異議を唱えたのを皮切りに、4日には民主党の「適切な医療費を考える議員連盟」が、次期診療報酬改定で本体部分と薬価・材料を合わせた全体で、3%以上の引き上げを求める緊急提言を決議した。その中で、漢方薬等の市販類似薬の保険外しに異議を唱え、今後も保険の給付対象とするよう注文をつけた。

 漢方薬の保険適用継続が大きな焦点となっている最中の10日、都内で開かれた「21世紀漢方フォーラム」には、与党・民主党の国会議員が多数出席し、漢方薬の保険適用継続をめぐり相次いで発言した。特に、山根隆治副幹事長が、「党としては正式に医療用漢方薬の保険適用継続を、政府に申し入れることを決めた」との方針を明らかにすると、会場は大きな拍手に包まれた。

 その発言通り、17日に民主党筆頭副幹事長、社民党政審会長、国民新党政調会長は、行政刷新会議の事業仕分けに関連する3与党の予算要望を、藤井裕久財務相と菅直人副首相・国家戦略担当相に提出し、3項目の要望のうち1項目に市販類似薬の保険外しの撤回を正式に要請。「漢方薬、湿布薬等の保険適用については統合医療推進の政策からも、保険適用を継続する必要がある」と適切な対応を迫った。

短期間で民意が総集

 最終的に、日本東洋医学会など4団体が断続的に行ってきた署名は、電子署名9万5962通、郵送等82万8846通の92万4808通に上った。今回、署名運動の起爆剤となったインターネット上の電子署名は、第1回署名簿提出後の1日以降は急速に減少し、第2弾は書式署名が牽引する格好となったが、新たな電子媒体を通じたネット世論の盛り上がりは、様々な教訓を残した。

 今回の署名活動を通じて、4団体は連名で、「わずか3週間の短い間に、これほどの署名が集まったことは、国民医療において、いかに漢方薬が必須であるかという民意である」とコメントしている。

 まさに、国民から信頼される漢方医療を推進するために、政府の政策的支援はもちろん、医師、薬剤師など医療従事者の努力が欠かせないことを、今回の保険外し問題は改めて教えてくれたと言えるだろう。

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