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フラーレンで遺伝子導入‐東大研究チームが成功

2010年02月23日 (火)
会見する中村(左)、野入の両氏

会見する中村(左)、野入の両氏

 炭素同素体のフラーレンを用いて遺伝子導入することに、世界で初めて東京大学の研究チームが成功した。マウスでのインスリン遺伝子導入実験では、血中インスリン濃度が上昇し、血糖が低下することも確認した。フラーレンによる導入法は、従来の遺伝子導入法に比べ、低毒性で安価といった利点がある。

 研究成果は、野入英世准教授(東京大学大学病院血液浄化療法部)と中村栄一教授(同大学理学系研究科科学専攻)らの共同研究チームによるもの。

 用いられたフラーレンは、炭素原子60個がサッカーボール状の構造を持ったC60フラーレン。国内で工業生産が開始されて以降、様々な工業製品への応用が検討されてきた。

 研究チームでは、C60フラーレンに四つのアミノ基を持たせた水溶性フラーレン(TPFE)を作製。TPFEに緑色蛍光蛋白質(GFP)の遺伝子を結合させ、マウスに静脈注射することで、肺、肝臓、脾臓でGFP遺伝子が発現することを突き止めた。

 市販の脂質型遺伝子導入試薬の場合、DNAとの結合安定性が欠けるため、静脈注射によって遺伝子が運搬されるのは肺に限られる。また、遺伝子導入後に肝臓や腎臓に機能障害が認められるが、フラーレン遺伝子導入試薬では、機能障害は認められず、安全性にも優れていることが証明された。

 それらの結果を踏まえて、研究グループはフラーレンを用いたインスリン遺伝子の導入実験を行い、血糖値を低下させることにも成功した。血糖の低下効果は、疾患モデル動物の遺伝子導入法で良好な成績が得られているHVJリポソームと同等だったという。

 TPFEは、C60フラーレンに正電荷を有するアミノ基を四つ導入したもので、これにより負に帯電したDNAと結合。TPFEとDNAが結合すると100nm程度のナノ粒子となる。このナノ粒子は細胞内に取り込まれやすく、取り込まれると、再びTPFEとDNAに戻る。また、TPFEは、大量合成が可能で、安価でしかも大量に共有できることから、今後のフラーレンを用いた遺伝子導入法の新たな展開が期待される。

 ただ中村氏は、今回の成果は最初のプロットタイプを提示したに過ぎず、これが即、新しい治療法として応用できるわけではないとの認識を示し、「人間に投与するには、まだ開発が必要」と述べ、今後、さらに研究を進めていくとした。

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