今年4月の診療報酬改定以後、業界にとって大きな宿題となっていたのが、薬価の頻回改定である。結果的には2007年度の薬価改定は見送られる方向になった。取りあえずは、薬業界も穏やかな新年が迎えられそうだが、その後には今年以上に厳しい議論が待ち構えている。
そもそも頻回改定の議論は、昨年12月の中央社会保険医療協議会で了解された06年度薬価制度改革の骨子に、薬価改定及び薬価調査に関して、「現在2年に1回行っている薬価改定は、頻度を含めたそのあり方について引き続き検討を行う」と盛り込まれたことがスタート。このため「薬価改定の頻度を含めた薬価算定基準のあり方」について、論点を整理する必要があることから、今年7月の中医協薬価専門部会で具体的な検討が開始された。
専門部会では2回に分けて、業界からの意見聴取を実施した。ヒアリングには日本製薬団体連合会、欧州製薬団体連合会、米国研究製薬工業協会のメーカー3団体、及び日本医薬品卸業連合会、日本ジェネリック医薬品販社協会が出席したが、薬価の頻回改定に対しては各団体とも、現行制度を前提にした実施には改めて反対する立場を強調した。
とりわけ日薬連の森田清会長は、「引き上げ、引き下げ双方の可能性がある改定ルールなら公平であり、頻度も検討の余地がある」と含みを持たせながらも、▽薬価が下がり続けるなど構造的欠陥がある仕組みのままで、改定頻度だけを増やすのは不公平を助長する▽価格の未妥結・仮納入や総価取引が解消されていないなどを理由に、頻回改定には応じられない――と厳しく批判した。
一方、流通側では薬卸連の松谷高顕会長が、「薬価改定1回当たり約40億円のコストが必要であり、これが毎年改定となれば大変な負担になる」と経営に大きな影響を与えると指摘。頻回改定に反対する理由として、薬卸連が薬価調査への協力を表明した後で薬価改定ルールが見直されるという、いわゆる「後出しジャンケン」を挙げ、行政側への不信感を表明した。
さらに松谷会長は流通問題にも触れ、焦点となっている未妥結・仮納入に関して、厚労省が3月に是正を求める通知を発出したことから、「取引当事者がそれぞれ考える価格に開きがあり妥結していないが、過去より真剣な形で交渉が進んでいる」と説明。一方で総価取引は、「銘柄別薬価収載を維持するなら不適切だが、未妥結・仮納入と同様に中医協で取り上げてほしい」と要望した。
さらに専門部会の議論では、薬業界代表の専門委員だけでなく、診療側の日本医師会や日本薬剤師会も、頻回改定には反対する立場に回ったことから、専門部会には見送りムードが蔓延。また来年度の予算編成では、社会保障費の自然増7700億円のうち2200億円の削減を求められているが、この削減目標を達成できるメドが立ったことなどから、07年度の実施が見送られたものである。
しかし、社会保障経費を国庫負担ベースで5年間に1・1兆円削減するというのは、既に確定している政府方針だ。そのため、08年度以降の予算編成にどう影響してくるか、依然として課題は残っているのも事実である。
また、支払側の中からは「当初は来年春までに頻回改定の結論を出すということで議論を急いできたが、もう少し時間ができた。もっと時間をかけて議論すべきではないか」とする意見も出ている。
頻回改定をめぐる今年1年間の議論を振り返ると、取りあえず来年の改定を回避することはできたが、頻回改定という宿題に対しては何らの回答も出ておらず、単に先延ばしされただけという見方もできる。
例年通り2年に1回の薬価改定を行うのであれば、08年4月が改定の年に当たる。通常であっても、来年は薬価論議が避けて通れない年であり、そこへさらに頻回改定という宿題が上乗せされてくる。その意味でも、年明けは厳しい1年のスタートと言わざるを得ない。業界にとっても、今まで以上に精緻な理論武装が必要となるだろう。