「氷山の一角」とは思いたくない。先日、福島県の薬務課は、今年8月に同県が実施した登録販売者試験で、受験者2人が提出した受験申請書類「実務経験(見込み)証明書」の偽造が判明したとして、当該者の合格取り消しを発表した。県薬務課によると、処分対象者は必要な実務経験がないにもかかわらず、事実と異なる書類を提出し、試験に合格していたという。同様の理由による合格取り消しの事例は、今年5月に栃木県でも判明している。
両県の場合、合格取り消しに至ったプロセスの端緒には、「情報提供者」の存在があり、結果的に、試験合格後に「取り消し」という処分を公表した格好になる。しかし、複数の薬務主管課からは、受験申請書類の受付後に「情報提供」があり、事業者に確認したところ、受験資格を満たしていないことが判明したため、受験申請の「取り下げ」を求めた事例もあるという。
2006年の改正薬事法で登録販売者制度が新設され、その認定を行う「登録販売者試験」が、08年度から都道府県で実施されている。登録販売者試験の受験資格については、実務経験1年以上が設定され、開設者による月80時間以上連続勤務等の証明が必要になる。
「合格取り消し」の処分を行った栃木県と福島県の事例では、医薬品販売に従事していたが、単に時間的な不足があったという程度のものではなく、受験者の勤務実績自体がないにもかかわらず、事業者が確信的に虚偽の証明書を作成したと見られる。
薬事法施行規則の実務・業務経験の証明に関する規定では、「虚偽又は不正の証明を行ってはならない」とされてはいるが、偽りの証明書を作成した事業者に対しては、行政処分の根拠となる罰則規定は設定されていない。
各自治体の登録販売者試験要領では、「受験申し込みで虚偽や不正のあった場合、受験は無効。合格通知の発送後に判明した場合も合格を取り消す」ことが明記されている。しかし、この2年間に限っていえば、全国で膨大な受験申請があった。各都道府県は、受験資格の確認審査に関し、書類不備など以外には「虚偽がない」という性善説に立って、作業を進めているのが現実だろう。また、受験地制限がないことから、受験者の勤務実態や、証明書を作成した事業者の業務内容の真偽を、一つひとつ確認することは難しいという実情もある。
ただ、現実的にはこれまでの事例のように、内部告発的な情報提供があって、はじめて対応しているのが現状だろう。登録販売者は、既に昨年度までに約8万人の合格者が出ており、年度内にも10万人に迫る勢いだ。誤解を恐れずいえば、中には、受験資格を満たしていない合格者の存在もあり得る話だろう。
実務経験証明書を作成できるのは、薬事法上規定された医薬品販売事業者に限られる。そうした人たちは既に、生命関連商品である医薬品が、他の物販品と大きく異なる特質を持つことも理解しているはず。受験資格の遵守が骨抜きとなれば、新たな医薬品販売制度の根幹にも関わる問題にもなる。
虚偽証明の抑止力となる措置を検討すべき時期にきているのではないか。