商品購入時の対価に、ポイントを付与し後日還元するサービス。これを保険調剤の支払いに適応することは是か非か。今秋以降、この問題が急浮上し、保険薬局業界関係者の間で、大きな関心事となっている。今年7月に関東地区のあるドラッグストアが、保険調剤の自己負担の支払いに対し、ポイントを付与するサービスを開始したことに始まる。現在、ドラッグストア各社は、それに追随する動きが出始めている。
こうした事態を受け、先日、自民党の藤井基之参院議員は、保険調剤の一部負担金の支払いにポイントを付与することが「負担金の減額にあたる」と指摘し、政府の見解を求める質問主意書を提出。これに対する政府答弁書で、利用者の一部負担金の減額に当たる場合があれば、「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」の規定に違反するとの解釈が示された。
その一方で、医療保険各法にポイントの提供、使用自体を規制する規定はなく「ポイント」の提供が、保険医療の質の低下や公的医療保険制度の根幹を揺るがすことにつながるとは考えにくいとの判断もあり、実質的に「ポイント付与は容認」ととれる内容となった。
この件で、日本薬剤師会は保険調剤を対象とするポイント提供およびポイントカードの使用は、ともに一部負担金の減免に当たるとし、「保険調剤に携わるものとして保険薬局および保険薬剤師は、保険調剤におけるポイントサービスの提供は厳に慎むべき行為」との見解を示した。また、日本保険薬局協会も、先月中に「保険調剤のポイント付与は容認しがたい」との声明を発表するなど、反発姿勢を強めている。
一方、ポイント付与を実施する企業が加盟する日本チェーンドラッグストア協会は6日、「調剤の一部負担金のポイント付与は否定しない」との見解を示し、当面、「保険制度による国民医療維持の観点から、各社の冷静で常識的な対応をお願いする」と静観の構えだ。
ポイント付与は、いまや顧客囲い込みの有効手法として、全ての販売業種で取り入れられているサービスで、ポイント発行企業側は、商品交換にしても金券化にしても、ポイント付与を販促費として会計上処理する。このため、ポイント付与は紛れもなく値引きに相当する行為である。
それ自体が、公的医療保険制度の根幹を揺るがすかどうかは別にしても、行政側が、こうした市場競争原理を容認するのであれば、一部企業だけでなく全薬局に対し、何%のポイント付与(値引き)なら認めるのかを明確に示すべきだろう。それでこそ、医療の公平性が保たれるというものだ。
行政側が、かつて医療機関でクレジットカード支払いが可能になった際、ポイント付与も認めているため、今回のポイント付与が否定できないのであれば、それはまさしく行政の無誤謬性にほかならない。むしろ医療費支払いにはクレジットも含め、一切のポイント付与は認めないと改めることも必要だ。
今回のポイント付与サービスの実質的な容認は、ドラッグ企業も処方せん囲い込みにつながるため喜ばしいことだろうし、顧客も値引きで得した気分にはなる。
しかし、穿った見方をすれば、一番喜ぶのは逼迫する医療財政をどうにかしたい国かもしれない。2012年の診療報酬改定で、ポイント付与が値引き相当ということであれば、引き下げの余地があるとして、その論拠になりかねないと見る向きもある。
市場主義が馴染まない医療分野でのポイント付与は、目先の利益追求だけでは済まない大きな要素を孕んでいることを、関係者は自覚すべきだ。