岐阜薬科大学と医薬品医療機器総合機構(PMDA)が連携大学院設立に向け協定書を締結した。これまで筑波大学、山形大学など医系との連携はあったが、薬系大学は初めてだ。薬学におけるレギュラトリーサイエンスの振興を目指している。日本の薬学研究の歴史の中で、一つのエポックとして振り返るときが来るかもしれない。
日本のレギュラトリーサイエンスに関しては1980年代後半、当時の国立衛生試験所の所長だった内山充氏が、他に先駆けて、その重要性と発展の必要性を提唱してきたことは周知のことと思うが、それから約20年を経た現在、深く潜行していた「認識の深まり」が、より具体性をもった「発展の兆候」へと、動き始めたとの印象を持つ。
先日、日本学術会議は公開シンポジウム「薬剤師の職能とキャリアパス」を開催したが、この中でもレギュラトリーサイエンス振興の必要性が指摘され、欧米のような製薬企業と行政機関間での人材交流の可能性が、産学官で討議される場面もあった。
製薬企業側から竹中登一アステラス製薬会長が、創薬研究での薬学系人材は評価が高いとした上で、日本でもレギュラトリーサイエンス(講座)の充実を訴えた。さらに「日の丸ファーマ」を目指すには、「産学官連携」の人材開発が重要と改めて強調した。
これに対し厚生労働省の平山佳伸大臣官房審議官は個人的な見解として、現状は従来からの“官民癒着”に敏感な風土があるなど、個人のキャリアに対しドライな欧米とは全く環境が異なることを強調した。ただ、PMDAと産業界との人材交流は否定せず、「大学はよい場所」とした。 一方、新たな薬学教育制度も既に5年目を迎え、6年制学科は5年次、4年制学科では国公立を中心にほとんどの学生が大学院に進学し、それぞれの道を歩みつつある。
旧制度では約2500人に達した修士課程の院生数が、新制度になって半減。このことが国公立大学を中心に、将来の薬学研究レベル低下への懸念が広がっている。医学部では約1万2000人の中から4000人程度が博士課程に進学しているのに対し、薬学6年制学科からの進学は、ほとんどが私立大学ということもあり、増加は期待薄だ。
従って、将来の薬学研究者は、実質的に4年制学科卒業者が中心となるが、これに続く大学院では、他学科からの流入を促し、その幅を広げる一方、質確保・向上も望まれている。
東京大学教授で薬学会会頭も務めた長野哲雄氏は、「従来にない薬学独自の教育・研究の展開が必要」とする。これまでの「創薬支援」研究から脱し、創薬そのものに薬学研究の発展の芽を構築する必要性を強調する。
レギュラトリーサイエンスは、創薬研究の一つの柱だ。これまでも必要性は叫ばれながらも、現実には対応する講座・研究室を置く大学はごくわずか。「日の丸ファーマ」を目指す竹中氏が、アカデミアに対し講座の充実を訴える
のも無理はない。
薬系大学として初めてPMDAとの連携大学院を開設し、薬学のレギュラトリーサイエンスの研究活動をスタートさせる岐阜薬科大学。この取り組みは4年制中心の大学にとって一つの方向であり、官民交流の“場”としても発展が期待されるよう。
また、今回のような官学の連携・交流をきっかけとして、従来の「規制科学」から、最新の科学技術の進歩を、より望ましい医薬品開発へと反映させる「調整科学」が進展することが望まれる。