いろいろな変化があった2010年だが、年の瀬も押し迫り、新年を迎える準備に忙しい1週間を残すのみとなった。そして、本格的なインフルエンザシーズンの到来である。
インフルエンザの流行状況を知るためには、従来から厚生労働省が発信しているレベルマップなどのインフルエンザ情報があるが、今回、日本医師会がホームページ上(トップの左上)において、マップで可視化した感染症サーベイランスを試行的にスタートさせている。現在、対象病原体はインフルエンザだけだが、将来的に順次拡大する意向だ。
日医の感染症サーベイランス事業は、日医標準レセプトソフトで入力された検査・投薬・傷病名を、地域ごとに情報を自動的に集積して探知する手法を導入しており、全自動で24時間以内に情報を共有できるのが特徴だ。参加している医療機関は、11月15日現在で、北海道から沖縄までの診療所(有床診療所86施設、無床診療所539施設)と病院(36施設)の661施設であり、迅速な流行状況把握に期待がかかる。
ヒトで流行する新型インフルエンザへ変性する前身と考えられる、高病原性鳥インフルエンザH5N1型に感染し、死んだ鶴が鹿児島で確認された。周囲には多くの養鶏場があり、今後の感染拡大が懸念されるが、同じ九州の宮崎の口蹄疫騒動の二の舞にならないことを願いたい。これに関しても、スピーディな情報収集によって被害の拡大を防ぐことが可能だ。
21日には、厚生労働省の「院内感染対策中央会議」が、集団発生の目安と保健所への通報、300床以上・未満の医療機関の対応などについて提言をまとめた。▽1例目の発見から4週間以内に同一病棟で同一菌種の感染3例以上▽同一施設内で同一菌株の感染3例以上――という集団発生の目安を初めて明確化したことで、保健所への迅速な報告、感染拡大防止策の即応が可能になると見られている。
また、地域ネットワークの重要性に言及しているほか、感染制御については、300床以上はチームでの活動、未満では看護師への支援体制確立も提言している。院内感染の問題は、仕事柄、医療機関を必ず訪問しなければならない医薬品メーカーMRと卸MSにとって、決して他人事ではなく、重大な関心を持っておくことが肝要だ。
人類にとって最古で最大の敵である感染症は、宇宙旅行も可能な文明を持つに至った21世紀の現代でも、最強の脅威であり続けている。感染症との闘いは、その発生・流行動向を迅速かつ正確に把握することが、まずもって重要だ。
最近の院内感染ケースでも問題となったが、情報収集の鉄則は、発信側が情報を隠蔽しないこと。国家間の紛争にまで発展しかねない、国防機密までも垂れ流すウィキリークスは行き過ぎの感があるが、こと生命、健康に甚大な影響を与える情報は、早く正確に提供されるべきだ。
多くの情報ネットワークが既に存在しているが、個々の情報だけではなく、関係する情報が相互にリンクするようなネットワークも求められる。もっとも、複雑化してしまっては、本末転倒だが。
制度やインフラよりも、大切なのは、感染症に対する個人の認識と自覚である。これから、インフルエンザの本格シーズンを迎える。感染症対策に年末年始はない。