2010年の新年は、夏に予定されていた選挙に向け、薬剤師の存在感を示すため、日薬が「一丸となって進む」ことを、多くの会員が祈念して明けた年と言える。3年間の臥薪嘗胆のかいあって、見事に7月に実を結んだ。政治的な環境は大変、不安定な年ではあったが、「薬剤師の政治力」という視点では、大きな成果を出せたものと確信している。
新たな年は、「国民のために働く薬剤師」のあり様を、社会に理解していただくために、この政治力を誤りなく発揮できるよう、連携・支援をしてまいりたいと考えている。
一方、改正薬事法が完全施行されて半年が経過し、薬局・店舗販売業における法の遵守状況や、省令で特例的に認められている非対面販売の実態について、わが国ではあまり例のない、国が主導する「制度の定着度の調査」が年頭に行われた。6月に公表された調査結果によれば、何らかの遵法上の瑕疵がある薬局・店舗販売業が見られ、日薬としては必ずしも満足できる状態ではなかった。
医薬品は、専門家の対面による販売が、患者の安全確保の上から「不可欠」として、対面が確保できない販売手法や、専門家の関与しない販売体制に対して、強く反対してきた日薬では、予想外の結果に緊急の自主点検と、それに続く相互点検実施を都道府県薬剤師会に指示し、早急な体制整備を図った。
法改正の趣旨や目的が、十分に理解されていないためもあって、医薬品を購入する国民の方々から、「自由でなくなった」という声が上がったことも事実だが、今次の薬事法改正は、全ての医薬品の適正使用を確保するために行われたものと認識している。
11年は国民に対して、法改正の趣旨を一層周知すると共に、官民挙げてなお激しさを増す、インターネット等による非対面販売や、医薬品にかかる様々な規制の緩和要求に臆することなく、国民が過不足なく、どこでも安心して医薬品を使える体制の整備に向け、機動的に施策を講じていく年と位置づけている。
また00年以来、10年ぶりのネットプラス改定となった、10年度診療報酬等の改定において、調剤報酬は薬歴管理の重要性が評価され、処方日数の長期化への対応や、後発医薬品使用の基軸を率から量へと変更するなど、より調剤実態を反映した改定が行われた。
しかしその一方で、新薬創出・適用外薬等解消促進加算が導入され、企業の開発意欲は維持されることとなった半面、長期収載品等を中心に6%に近い大幅な薬価引き下げが、後発医薬品在庫の増加と相まって、ボディーブローのように薬局の経営を圧迫している。
そのような環境の中でも、医薬分業は数字の上では、いく分の陰りは感じられるものの、全国平均で60%を超え、単月では80%を超える県も出てきており、医薬分業の進展という視点では、喜ばしいことだが、反面その費用増と相まって、「趣旨は達成できているのか?」という厳しい指摘も聞かれている。
12年の医療・介護の同時改定へ向けて11年は、医薬分業の社会的必要性を広く患者・国民に知らしめると共に、さらなる高齢社会における医療・介護の両場面で、薬物治療の責任者として、薬剤師が存在することの必要性を明確に示すため、気を引き締めて、改定作業に取り組んでいく年となる。
さらに、四十数年来の念願であった、薬剤師養成教育の6年制がスタートし、その新たな教育制度の中でも、薬剤師の養成にとって欠くことのできない「長期の病院・薬局における実務実習」がスタートした。
5月の実習開始の当初には、受け入れ側・大学側の双方に、不安感と期待感が綯い交ぜになった雰囲気が漂っていたが、「案ずるより産むがやすし」で、大きな混乱もなく第2期を終えることがでた。
これは、受け入れに向けて長い期間をかけて準備をしてきた、大学・薬剤師会関係者の努力の結果と認識している。双方で今年度の結果の評価が行われ、次年度以降の実務実習計画の参考にされていると思う。
社会にとって必要とされる、薬剤師養成の重要な役割を担う「長期実務実習」が、さらに効果的に実施されるよう、将来を見据えて、大学・病院・薬局の三者間の、一層の連携強化を図る年になるものと考えている。
そして、今後のわが国の医療提供体制を、どのように構築するかの議論がスタートした。入院から外来・在宅を経て終末期に至るまで、切れ目ないシームレスな医療を提供する体制の構築が「国是」とされており、その構築に向けて、あらゆる医療関連分野での議論がスタートしている。 わが国において、今後も安定した医療提供体制を維持・構築し、入院医療と在宅医療の双方で、患者にとって安心で安全な医療が的確に提供されるためには、医師をはじめ歯科医師、薬剤師、看護師等の医療関連職種が、それぞれの専門性を発揮し、職責を認識し合いながら相互に補完する、いわゆる「チーム医療」の推進が必須のことと認識され、検討会での議論を経て、各医療の専門家の業務や役割の分担について、一定の方向性が示された。看護師の部分だけがクローズアップされがちだが、病院・開局を問わず、薬剤師にとっても画期的な内容であった思う。
10年3月19日に公表された検討会報告書を踏まえて、新たな役割分担のための実効性ある施策が、講じられることになると思う。ただし、現代医療の重要な手段の一つとなっている、薬物治療に関わる業務は、医療機関・地域を問わず「薬剤師が全て担う」という自負を持って取り組んでいきたいと思う。
最後に、11年も日薬にとって、多事山積の年と考えている。院外処方せんの利用が、患者・国民にとってごく普通のことになりつつある中で、「ポイントサービス」に象徴されるような、経済原則に目先を奪われることなく、なぜ諸外国では、医薬分業制度が800年にもわたり国民から支持を得ているのか、日薬が先頭に立って会員のみならず、全国の薬剤師の方々と共に考え、協力・協調して、薬剤師の将来を展望してまいる所存である。