日本中毒学会による「クリニカル・トキシコロジスト」の認定制度が今年から始まった。薬毒物中毒に関する十分な知識と技能を有する医師や薬剤師など幅広い職種を、単一資格で認定する制度。中毒診療のレベルアップや学会活動の活性化が主な目的だ。先に大垣市で開かれた同学会シンポジウムでは、制度の発足によって「中毒診療に関わる薬剤師のアピールにつながる」などとされた。
この制度は2007年から本格的な検討が始まり、今年1月に規則と施行細則が決まった。11年度は過渡的措置として7月29日に、対象を同学会評議員に限定したセミナーと第1回目の試験が行われた。8~9月に認定者が決定する見通し。第1回認定を踏まえて今後、セミナーや試験の範囲やレベルなどを検討し、12年度から一般会員の認定が始まる計画だ。
取得要件は、▽中毒に関わる3年以上の実務経験▽同学会の正会員であり3年以上の会員歴▽同学会が指定する学術集会、研究発表、研修セミナーなどにおいて必要な単位の取得▽中毒治療に関する業務に参加した10例の実績▽認定試験の合格――となっている。
医師、薬剤師、看護師、臨床検査技師、各種研究員、行政担当者など、どの職種であっても取得可能な単一資格として設計されたことが大きな特徴だ。同学会会員の多くは医師で全体の3分の2に及ぶが、薬剤師の会員も167人おり、15%を占めている。会員の所属施設も、急性期病院の救命救急施設だけでなく、日本中毒情報センター、大学、警察関係など幅広い。
同学会認定制度検討委員会の須崎紳一郎氏(武蔵野赤十字病院救命救急センター)は、「専門医制度を求める声もあった」と振り返った上で、「この学会の特徴は多職種で構成されること。いろいろな方が集まって熱心に討論するのが本質。それぞれの業務は異なるが目的は一つ」と述べ、こうした学会の特性を踏まえ、「どの職種でも取得可能な単一の資格にした」と解説した。
ただ、「共通性を強調し過ぎると、下揃えになってしまう。レベルが下がると本来のスペシャリストという概念から逆の方向にいってしまう」との懸念を表明。今後、研修セミナーやテキストの範囲や内容、合格水準などをどう設定するかが鍵になるとした。
一方、病院薬剤師の立場から近藤留美子氏(北里大学病院薬剤部)は、一般病棟に比べて、救命救急センターへの薬剤師の配置が十分でない中、「中毒に関わっている薬剤師は肩身が狭い思いをしている」と説明。認定制度は、中毒治療に関わる薬剤師のモチベーション向上になるほか、その役割のアピールに役立つとした。
その上で具体的な役割として、▽中毒原因物質と患者に関する情報を的確に把握する▽中毒原因物質の同定や定量を行う▽分析結果を解析し迅速で的確な情報を提供する▽中毒処置薬の適正使用を提案する▽PK/PD理論を中毒治療に応用する▽中毒治療のエビデンスを多施設共同で構築する▽薬学部の長期実務実習生の教育を行う――などを提示した。