日本製薬工業協会専務理事 仲谷 博明
これまでも、資源の乏しいわが国においては、省資源知識集約型高付加価値産業の育成こそが重要との認識があったが、今年ほどその思いが高まった年はなかったといえる。もちろん、財政的な理由も相俟って、薬価制度見直し論議など例年と同様の様相を呈したものも少なくない。これらのいくつかについて振り返り、新たな一年への期待に触れてみたい。
担税力一番の医薬品産業
製造業における担税力については長きにわたり自動車、電機が絶えず一番、二番に位置しており、製薬産業は三番手であった。しかし、リーマンショック、ギリシャを発端とした経済危機により、2008年以降は医薬品産業がトップにおり、以前から言われていた「医薬品産業は景気の動向にあまり影響されない」という言葉を証明した形となった。
麻生政権の時に、経済対策として導入された研究開発税制の控除上限引き上げ(法人税の20%であったものを30%に引き上げた3年間時限措置)は、今年から元に戻されていた。まだ経済状況が回復していない状況下であり、施策の継続が必要と訴えたものの実現しなかったことは残念でならなかった。
国民により良い医薬品をより早く届けることにつながる施策であり、医薬品産業の国際競争力強化の観点からも、本日からスタートすることとなるであろう新安倍政権での復活を確信しており、恒久制度化されることを切望するものである。
医療イノベーション5か年戦略と日本再生戦略
京都大学の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞されたことは、国民はもちろんのこと、医薬品産業にとっても極めて喜ばしいことである。再生医療の進展に期待が高まるのみならず、医薬品の効果、副作用の確認にも威力を発揮することが期待できる。研究者のモチベーションを高める効果も計り知れないものがあろう。
iPS技術の活用等の領域において国際競争の激化が聞こえてきているが、日本は負けるわけにはいかない立場にあり、国家施策としてアカデミアに対する予算上の大ナタを振るうことを期待してやまない。製薬企業各社も、新薬創出の迅速化に向けてiPS技術の応用に取り組み、少しでも早く患者に治療薬を届けるよう意欲は高まっている。
また、7月に閣議決定された日本再生戦略では、革新的医薬品の創出を支援することにより、国民患者への安心・安全を高めると同時に経済を成長させると表明している。医薬品産業の育成が“一丁目一番地”の課題と位置づけた前回の安倍政権であっただけに、このたびの新安倍政権においても創薬支援ネットワークなど現在取り組み中の諸施策について継続し、加速されるものと確信している。