薬学部の6年制がスタートして2年目を迎え、各大学の対応もピッチを早めている。2学年分増加するため、学部定員が1・5倍に膨れ上がるのに加え、6年制を導入した最大の眼目である臨床教育の充実も、達成させなければならない。そのため私立薬系大学を中心に、学生増や教育充実の受け皿として、新校舎の建設、あるいはキャンパス全体の再構築や移転などが続いている。
本紙では例年、全国薬系大学に対し、教授クラスの人事異動と最近のトピックスについて、アンケート調査を実施している。今年は、4月に新設された5大学(岩手医科大学、いわき明星大学、姫路獨協大学、兵庫医療大学、安田女子大学)を除く66校1学部に回答を依頼したが、はっきり浮かび上がった点は、老舗大学を中心とする建設ラッシュだ。2003年度から始まった新設校の建設ラッシュと合わせ、地域の財政改善や景気回復に貢献しているとの見方もできる。
ちなみに来年は、08年度に設置予定の鈴鹿医療科学大学、立命館大学、つくば薬科大学(仮称)を除く71校1学部に対し、調査協力を依頼する予定である。02年度以前は46校で済んでいた調査だが、今後は依頼先がどれだけ増えることになるのか、全く先が読めない。
ハード面の充実を図ると同時に、各大学は実務家教員と呼ばれる臨床系教員の採用を積極的に進めている。日本薬剤師会「早期体験実習・実務実習事前教育等の現状調査」(07年3月)によると、実務家教員の採用数は病薬系から255人、薬局勤務系から30人という状況である。本紙調査の範囲であるが、教授に限れば07年度には10人が新規採用された。それ以前は06年度6人、05年度4人、04年度10人以上という状況であり、病院薬剤師からの教授転身ラッシュも、勢いは衰えていない。
一方、今年度の新入生の状況を見ると、多くの私立薬系大学が定員割れを来したようだ。近く日本私立薬科大学協会から、詳細な調査結果が報告される予定であるが、受験者数の減少や入学者数の読み違いによって、定員の50%前後という大学が散見される。逆に、大幅な定員オーバーとなった大学もあるなど、状況は多様のようだ。
大学経営という面から見ると、薬学部の設置が魅力的とは言えない状況になっているにもかかわらず、来年度も少なくとも1校2学部が新設され、74大学1学部になる見通しだ。学生数も1学年当たりの定員が1万3574人、6年制学部だけでも1万2834人に拡大する見込みだが、今年の入試を考えると、定員割れが相次ぎ、現実には目減りする可能性もあるのではないか。
今春、ある地方の私立大学は、あえて定員割れの道を選んだという。さらに例年のように、合格者を対象に化学の試験を実施したところ、結果は惨憺たるもので、「まともな薬剤師が育つかどうか心配だ」と危惧する。“大学全入時代の薬学部乱立”という状況から、薬学生のレベル低下が懸念されている。
また、私大は国試の合格率が生命線であり、1年次から国試対策が行われるケースも少なくないと聞く。6年制の意味を改めて問い質したくなる。
今後、5年ほどかけて公益法人制度の改革が進められる。国の狙いは税収であろうが、公益法人本来の意味を、自らに問い直す良い機会ともいえる。大学ばかりでなく職能団体等も含めての話だが、その存在意義、社会に対する公益的役割とは何か、国から守られるに値するだけの姿勢、事業、体制づくりが望まれよう。