医師とレセコン介し情報共有‐待ち時間短縮や医療の質向上
高森わたなべ薬局(熊本県阿蘇郡高森町)は、隣接する診療所といくつかの情報を電子的にやりとりしている。同意を得た患者を対象に、レセコンで処方箋情報を受け取ることができる。薬剤師からの伝言や調剤実施情報を、診療所の医師が電子カルテで閲覧することも可能だ。患者の待ち時間短縮だけでなく、医療の質の向上にもつながるという。
阿蘇山の南側を走る南阿蘇鉄道の終点「高森」駅。そこから徒歩数分の場所に今年2月、高森わたなべ薬局は新設された。同じ時期に薬局の隣に新規開業した渡邉総合内科クリニックからの処方箋を中心に、薬剤師1人、事務員1~2人体制で1日約30枚を応需している。
診療所と薬局間の電子的な情報のやりとりは、EMシステムズが実験的に提供している「医療情報連携サービス」(仮称)によって実現した。同クリニックが同社の電子カルテを導入。それを受け高森わたなべ薬局も同社のレセコン「ReceptyNEXT」(電子薬歴搭載タイプ)を導入。それぞれのオプションとして同サービスが組み込まれた。
このサービスは、安全な通信回線を経由し、同社のデータセンター(DC)を介して、診療所と薬局間のデータの受け渡しを行うもの。複数の医療機関が医療情報を電子的に共有する日本版EHRの体制構築に向け、国は基盤整備を進めている。その実証実験に参加した同社が開発したサービスだ。同クリニックと高森わたなべ薬局は、モニター施設として新規開業時からこのサービスを活用している。
疑義照会の効率化など実現
同意を得た患者の処方箋情報を、高森わたなべ薬局は紙の処方箋とは別にレセコン上で受信することができる。来局するほぼ全ての患者から同意を取得している状態だ。患者を長く待たせている状況では、焦りから調剤ミスが誘発されかねないが、ゆとりをもって準備した上で、患者が処方箋を持ってきてから余裕を持って調剤を行える。薬歴を十分に見て、患者に確認すべきことを整理する時間も生み出せる。
患者の待ち時間は「かなり短縮されている」と同薬局の管理薬剤師、入田朋子さんは言う。双方にゆとりが生まれるため「患者さんと話す時間を十分にとれていると思う」と話す。
医師への伝達事項を電子的に送信できることも特徴だ。電子薬歴には▽疑義照会の内容▽患者への服薬指導▽副作用の疑い――という専用の入力項目がある。そこに薬剤師が入力した情報を、同クリニックの医師は電子カルテで閲覧できる。
「電話でも疑義照会を行うが、その内容を入力しておくと、また医師に確認してもらえる」と入田さん。疑義照会内容が次回処方に反映されやすくなり、同じ疑義照会を何度も繰り返す必要がなくなる。
電話ですぐに伝える必要のない事項も、この仕組みを使って医師に伝えられる。「医師は忙しく、診療の合間にわざわざ電話したり、会って伝えたりするのが困難な時もある。ここに入力すると確実に伝わる」と入田さんは語る。
この仕組みによって薬剤師は情報をフィードバックしやすくなる。同クリニックの医師も、薬剤師からの情報提供を歓迎しているという。
サービス充実へ機能拡張も計画
処方箋に記載された先発品がどのジェネリック医薬品に切り替わったのか、一般名に基づきどの薬が調剤されたのかという調剤実施情報も、電子カルテで閲覧可能だ。変更した処方箋をまとめて診療所にFAXで送る方法に比べ、医師は情報を把握、活用しやすくなる。
今後、診療所からの病名、検査値、問診情報の送信も可能になる予定だ。さらに同社以外の電子カルテやレセコンを利用しているクリニックや薬局でも利用できるよう機能が拡張される計画。
「十分に意思疎通できない高齢患者さんや、家族が代わりに薬を取りに来る場合などでは、どんな症状や病気にこの薬が処方されたのか分かりにくいが、それを確認できるようになるのはいい」と入田さんは期待する。検査値の情報は、効果や副作用のチェック、腎機能に応じた投与量調節などに役立つという。
EMシステムズ
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