医療事故と言っていいだろうが、厚生労働省に「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等のあり方に関する検討会」が立ち上がった。これは、同省が3月に公表した、この問題に関する「課題と検討の方向性」を叩き台に、その具体化を目指して設置されたものだ。
「方向性」では、医療は安全・安心が期待されているが、診療行為には一定の危険性が伴うことや、医療事故が発生した際に、死因の調査や臨床経過の評価・分析、再発防止策等の検討を行う専門的な機関がなく、結果として民事や刑事による裁判に委ねられる現状を指摘している。
その上で、中立性・公正性、調査性、調査権限、秘密保持等を持つ調査組織を、行政機関内に作り、安全・安心な医療確保や医療事故の再発防止等のために役立てていくことを提案している。
この提案に沿って検討会では、[1]死因究明を行う組織[2]届け出制度のあり方[3]調査組織における調査のあり方[4]再発防止のための取り組み[5]行政処分、民事紛争及び刑事手続きとの関係――など具体的な論点を示し、「方向性」のパブリックコメントでの意見や、関係者のヒアリングなどを行っている。
しかし、こうした議論は過去にも行われた。2002年7月、医療安全対策検討会議の下に「医療に係る事故事例情報の取り扱いに関する検討部会」が設置され、約1年半かけて、医療現場で発生する事故情報をいかに収集、評価し、事故防止に役立てていくか検討した。
検討部会の報告書では、医療事故事例情報活用の基本的考え方として、医療事故を医療政策上最も重要な課題と位置づけ、医療の安全と信頼性の向上を図る社会的システムの構築が求められるとした。
そして、医療安全対策の最大の目的を、「医療事故の発生防止・再発予防」との方針を打ち出し、▽医療現場から「幅広く」「質の高い情報」を収集し、専門家による分析を行った上で改善方策を医療現場等へ提供する▽全ての医療機関を対象に、収集範囲を厳密に区分せず、事故事例を幅広く収集する▽実際の事故事例の収集・分析・提供等は中立的な第三者機関で行う――との具体的取り組みを示した。
それに基づき、中立的第三者機関として設立されたのが、日本医療評価機構の医療事故防止センターである。センターでは、ヒヤリハット事例や、医療事故報告制度による事例報告を収集・分析し、その結果を広く社会に提供し、医療事故の発生防止・再発予防を進めることを最大の使命にしている。事故の当事者である医療機関と患者・家族の紛争解決までは扱っていない。
検討部会では、被害者家族から事故に対する医療機関の対応の不満、不遜さが訴えられ、再発防止に役立てばと裁判を起こすという状況が説明された。また、再発防止と被害者救済を図る中立的な第三者機関設立も訴えられていた。今回の検討会でも、また第三者機関の必要性が強調されている。
前回の検討部会で航空関係者から、「医療事故に関する議論は、30年前の航空業界の議論をみているようだ」との発言が思い出される。航空事故を調査・分析し、再発防止を提言できるよう、恒久的な「航空事故調査委員会」が設置されたのは1973年のことだ。それが現在の「航空・鉄道事故調査委員会」である。
医療事故と航空・鉄道事故は違う側面があることが指摘されているが、今回こそ中立的な調査組織の設置が具体的に進むよう期待したい。